母の日に選ばれる絵本が描く「親の切なる願い」 母は相反する感情を胸いっぱいに持ちこたえる
母は遠ざかっていく子どもを見送り、そして呟きます。
とても ちっぽけに みえることに おどろくだろう。
なぜ、母は、そんなことを知っているのでしょうか。
それは彼女もまた、小さく遠ざかっていく母の姿に手をふりながら家を出てきた経験があるから。
ほろ苦いような、甘く疼くような胸の痛みが、母としての私と、私を見送ったであろう私の母のものとして、二重にかさなります。
この本のふしぎな魅力は、ここにあります。
読者はいつのまにか自分自身の親を思い浮かべる
子を思う親として、この絵本を読みはじめたはずの読者は、いつのまにか、しきりに自分自身の親のことを思い浮かべているのです。
さらに時が流れます。
あなたじしんの かみも ぎんいろに かがやく ひが やってくる。
子どもであった人はすでに老境にあり、母であった人はセピア色の写真のなか、あるいは思い出のなかにしかいません。
読者は、じぶんの母だけではなく、その母にとっての母、あるいは、そのもっと前にいた母たちにまで、思いをはせることになるでしょう。
文章も絵も、とてもシンプルで控えめな絵本です。
21の言語に翻訳され、世界的ベストセラーになろうとは、予想もしていませんでした。
この小さな本に、どうしてこんな力があるのかと、折にふれて考えてきました。
ひとつには、3人の子を育てあげた母ならではの、たしかな実感。
もうひとつは、母娘の関係をテーマに小説を紡いできた作家の鋭い洞察。
このふたつのバランスが絶妙なのでしょう。
また、すべての人に母がいることを思えば、万人の心を揺らすのも当然かもしれません。