コロナ禍「企業援助と財政再建」を両立する方法 有事だからこそ「産業構造改革」を断行せよ

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私がこのような「厳しい」提案をするのは、日本の財政状況が世界一悪いからにほかなりません。

一般的に、国の生産性が高くなればなるほど、その国の財政はよくなり、給料も上がって、幸福度が増します。今回のコロナ危機は、日本が生産性向上を経済政策の基軸にする絶好のチャンスです。

「世界最悪の財政」がさらに悪化するのは確実

新型コロナウイルスの感染症拡大に対する経済対策として、全国民に一律で1人10万円を給付することが決まりました。そのほか、企業を対象とした給付も行われます。

コロナショックが長期化すれば、給付は10万円の1回では済まないでしょうし、終息後には別途大胆な経済対策が打たれるとも言われていますので、国の財政はさらなる悪化が予想されます。

これらの財政出動で、対GDP比で政府債務残高世界一の日本は、さらに借金を増やすことになります。GDPが成長している国ならば増やしてもいいかもしれませんが、GDPが25年も増えていない日本の場合、今後激減する次世代に一層重い負担を強いることになります。

日本では人口が減少する一方、高齢化も急ピッチで進みます。つまり、日本では社会保障の負担が重くなる一方で、その負担を担う生産性年齢人口が減るのです。仮にコロナショックがなかったとしても、生産性を劇的に高めないと社会保障が破綻するのは、火を見るよりも明らかでした。コロナショックの襲来で、一層、生産性向上の緊急性が増してしまったのです。

日本は、国際競争力が世界第5位と非常に高く評価されています。一方で、生産性は第28位です。このように大きな乖離が生じていることは、伸び代が大きいと捉えることも可能です。しかし、この乖離を埋めるためには、適切な経済政策が不可欠なのを忘れてはいけません。

さまざまなデータを精査すると、日本の国際競争力が高いのに生産性が低い理由は、日本の企業規模が平均してアメリカより4割、欧州より23%小さいからだということがわかります。企業規模が大きくなるほど生産性が上がるのは、経済学の原則です。逆に言うと、企業規模が小さくなるほど生産性は低くなってしまうのです。日本経済のあらゆる問題点は、この原則を使って説明することが可能です。

残念ながら日本では、生産性の低さを、エビデンスのない俗説的な感情論で説明しようとする意見を多数耳にします。

たとえば、「日本のサービス業の生産性が低いのは、他国に比べてサービスが丁寧だから。つまり、日本人の価値観や文化の違いに要因がある」「中小企業の生産性が低いのは、下請けが搾取されているからだ」など、特殊なエピソードをベースとした無理のある説明が多く聞かれます 。

サービス産業の生産性が製造業より低いのは、日本の製造業事業者の平均規模が、サービス業より大きいからに尽きます(参考:サービス業は「日本の低生産性」の主犯ではない)。中小企業の生産性が低い原因は、搾取ではありません。規模の違いによって論理的に説明することが可能です(参考:生産性低迷は「下請けイジメのせい」という誤解)。

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