人が生み出した「想像の共同体」国民国家の本質 「民主主義の知識」は今を生き抜く武器になる

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暴力(≒筋力)については男性のほうが優れているので、国家の誕生が男尊女卑、つまり太古の女系社会から男系社会に道を開いたという見方もあります。

国家の統治権は人民に対して生殺与奪の権利を持つわけですから、恣意的に権力を振るわれたら人民はたまったものではありません。そこで法律をつくり、三権分立(立法権、行政権、司法権を各々独立させる)を図るなどして国家権力の乱用を防いできたのが人間の歴史なのです。

ところで、現在の国家は国民国家(ネーション・ステート)です。これは、単純化して述べると、フランス革命によって新しく成立した概念で、国家内部の人民をひとつのまとまった構成員として統合しようとするものです。フランス革命では国王ルイ16世が革命政府によって処刑されました。

当時のヨーロッパの国々はほとんどが君主政で、どこの国にも王様がいます。王様を平気で殺したフランスの革命政府を放置しておいたら大変なことになる(次はわが身)と考えて、大挙してフランスに攻め込んできました(対仏大同盟)。そこに現れたのがナポレオンでした。

ナポレオンは新聞を使って次のように語りかけました。「100年戦争の後半期、イングランド王ヘンリー5世にパリを占拠され、フランスが滅びそうになったことがある。そのとき、ひとりの乙女(ジャンヌ・ダルク)が田舎から現れてフランスを救った。諸君はジャンヌの子孫で、偉大なフランス国民なのだ。フランスを守ろう」と。

それまでのフランス人には、フランス国民という意識はありませんでした。「俺はプロヴァンス人」「私はガスコーニュ人」などと考えていたのです。ナポレオンはメディア(新聞、宣伝ビラ)を駆使して、想像の共同体であるフランス国民を創り出したのです。

ソ連が解体した後に独立した新しい国々でも同様に「国民を創り出す」作業が行われました。たとえばウズベキスタンでは、英雄ティムールの子孫であるということが大々的に喧伝されています。

ではわが国はどうしたか。明治維新の際に国民国家のコアとなったのは天皇制でした。明治政府は朱子学の力を借りて、天皇の赤子である日本国民を創り出したのです。同時に、朱子学の特徴である男尊女卑や家父長制も刷り込まれてしまったのです。こうして創り出された国民(意識)を維持するため、各国の政府は国旗や国歌や国民の祝日などを制定して、一体感の醸成に努めているというわけです。

国民国家を理解する不朽の名著が、ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』です。僕はこの本は高校で教えるべきだと思っています。なお明治政府の国民国家創出については、小島毅の『天皇と儒教思想』という新書がわかりやすいと思います。国家とは想像の共同体に他ならないのです。

なぜ日本は「先進国の中で投票率が低い」のか

「選挙」は議員を選んで立法府をつくるものですが、立法府が定めた法律で行政や司法が動いていくわけですから、政府をつくるのは選挙であるといっても決して過言ではありません。この基本が腹落ちすれば、選挙で「何をすべきか」がよくわかります。

政府は市民の手でつくるものであり、その政府をより良くつくり変えるための手段が選挙です。政府に任せっ放しにするのではなく、個人個人が自分の頭でよく考え、友人や知人と議論した上で、その結果を示す行動が選挙です。

ですから、選挙のしくみ、法規、衆議院・参議院の定数などといった、試験問題に答えるための知識だけでは決定的に不十分で、

「選挙のとき、具体的にどう行動すべきか」

「『投票しない』という選択を取ることは、どういうことか」

「政治家とは、何をする人なのか」

などといった本質的な問題についても教えることが大切です。

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