人が生み出した「想像の共同体」国民国家の本質 「民主主義の知識」は今を生き抜く武器になる

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そもそも選挙は、「より良い人」を選ぶための制度ではありません。100年以上前の話ですが、英国の名宰相、ウィンストン・チャーチルが、次のように明言しています。

『「教える」ということ 日本を救う、[尖った人]を増やすには』(KADOKAWA)
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「自分を含めて選挙に立候補するのは、目立ちたがり屋やお金儲けをしたい人など、ろくでもない人ばかりである」

「選挙というのは、こういった信用のおけない人たちの中から、相対的にマシな人を選ぶ忍耐のことである」

「したがって、民主政は最低の政治形態である。ただし、これまで試されてきた王政や貴族政など過去の政治制度を除けば」

こういうリアリズムが理解できれば、投票は簡単です。女性議員が少ないのなら、女性の候補者に投票すればいい。若い議員が少ないのなら、若い候補者に投票すればいい。

市民がすべきことは、忍耐を強いられながらも、「100%満足はできないけれど、他の候補者に比べれば、多少はマシ」な政治家を選ぶことです。これらのことがわかっていれば、「良い候補者がいない」からといって、白票を出したり、棄権したりするといった誤った結論には至らないのです。

政府と市民は、対立するものではありません。政府は市民がつくるものなので、今の政府が気に入らなければ、選挙に行って政府をゼロからつくり直せばいい。そして、新しいルールをつくればいい。政治を変えるのは自分たちの1票であることを小学校や中学校で教える必要があるのです。

今こそ必要になる「強い武器」

ところで、新型コロナウイルスでは世界の指導者がまったく同じ3つの課題に懸命に取り組んでいます。

1.命を守るためのStay home
2.Stay homeを可能にする医療従事者などエッセンシャル・ワーカー(キー・ワーカー)への感謝と支援
3.Stay homeは収入減をもたらすので、弱者への緊急の再分配政策の設計

 

その様子はSNSで世界に同時に発信されます。それを見ている市民の政治に対する関心は高まるのではないでしょうか。現に韓国では総選挙の投票率が10ポイント弱上がったと報道されています。パンデミックは投票率を上げるかもしれません。

人が生きていくためには、自分の頭で社会のあり方を考える力が非常に大切です。だからこそ学校の現場で子どもたちに、社会に出ればすぐにでも直面する基本的な問題に対する考え方や心構えを教えて、つまり、最低限の武器を与えて、リテラシーを育てていく必要があるのです。

強い武器を身につけ、そして武器の正しい使い方を教えられた子どもたちが、これからの世の中を変えていくのです。

出口 治明 立命館アジア太平洋大学(APU)学長

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でぐち はるあき / Haruaki Deguchi

1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2005年に同社を退職。2008年にライフネット生命を開業。2017年に代表取締役会長を退任後、2018年1月より現職。『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『人類5000年史Ⅰ』(ちくま新書)、『「全世界史」講義Ⅰ、Ⅱ』(新潮社)、『仕事に効く教養としての「世界史」Ⅰ、Ⅱ』(祥伝社)、『本の「使い方」1万冊を血肉にした方法』(角川oneテーマ)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『ゼロから学ぶ「日本史」講義Ⅰ』(文藝春秋)など著書多数。

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