「批判回避」が巨大な「機会損失」を生み出す理由 「減点主義」を有事に持ち込んではいけない

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

私が在籍する慶應ビジネススクールでも、当面は遠隔授業を余儀なくされている。当校の授業の中心は講義ではなくケースディスカッションなので、遠隔でできるのかと当初は教員の間でも不安が多かった。しかし、やってみると結構できるということがわかった。だとすれば、「教室に来て、フェースツーフェースで議論をする価値とは何か」という、これまで当然と思っていた点について、より本質を考える契機となった。

今の機会損失を最小化するとは、「今までやってきたことを続ける」のではなく、本来の優先順位を見直し「何をするべきか」をしっかりと考えて行うことに尽きる。コロナ問題が収束したときに、自分は、自社は何を目指していきたいのかについて想像力を働かせ、そのときに備えてやるべきことは何かを考えることである。

「あのときに時間があったのに、なぜやっておかなかったのだろう」と思わないようにしたい。外出ができなくなって、「あれをしておけばよかった」と思った人も多いだろう。「いつか」とか、「時間ができたとき」にやるのでは遅い。

そのためにはニュースやSNSの曖昧なニュースで右往左往しない。つまり、「何をしないか」を決めることがまず必要である。そして、将来については、外部的な危機を待つのではなく、「当たり前」や「慣性」を見直すことのできる環境を自ら作り出すことも考えたい。

「ストックデールの逆説」

世界的ベストセラー『Good to Great』(邦題『ビジョナリーカンパニー2)』に、ベトナム戦争で7年間の捕虜生活を経て復帰した副提督の名を取った「ストックデールの逆説」が出てくる。

長い捕虜生活に耐えられたのは、「過酷な現実を直視しながら、しかし、絶対に助かるという希望を捨てない者」だという。一方、「◯◯までには解放されるだろう」と言っていた「楽観者」は、その見込みが外れるたびに失望し、心が折れて死んでいった。

「どんな危機も、もっと悪くなると思え」と言ったのはジャック・ウェルチだが、その前提は、「この危機を何としても乗り切って、もっといい会社になることができる」という強い信念に基づいた未来への想像力だったと思われる。

毎日悪いニュースばかりを聞いていると、不確実でも前向きなニュース「◯◯が効きそうだ」でも気持ちが明るくなるが、それがぬか喜びで終わることが少なくない。その時間、エネルギーをもし将来への備えに使うことができれば、将来的に大きな差別化の要因になるだろう。

コントロールできないことは、「希望的観測」や曖昧なニュースに一喜一憂するのではなく、現実を淡々と受け止める、そして、コントロールできることには期限を決めるなど優先順位を明確にして取り組む。コロナが収束したときに、それができたかどうかは個人でも企業でも国でも、大きな差となって現れるだろう。

「現実直視の共有」と「想像力」が今こそ求められ、そして、役に立つときはないと思われる。あなたの1番ピンは何ですか?

 
清水 勝彦 慶應ビジネススクール教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

しみず かつひこ / Katsuhiko Shimizu

東京大学法学部卒業、ダートマス大学エイモス・タックスクール経営学修士(MBA)、テキサスA&M大学経営学博士(Ph.D.)。株式会社コーポレイトディレクション(CDI)にて 10年間の戦略コンサルタント、テキサス大学サンアントニオ校准教授(テニュア取得)を経て、2010年より現職。2012年より仏エクス・マルセイユ大学経営大学院でも教鞭を執る。専門は、組織変革、戦略実行、M&A。Strategic Management Journal、Journal of Management Studiesなどの編集委員を務める。著書に『あなたの会社が理不尽な理由』『戦略と実行』『戦略の原点』などのほか、学会のトップジャーナルに英語論文も多数発表。株式会社ドリコム取締役監査等委員

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事