「批判回避」が巨大な「機会損失」を生み出す理由 「減点主義」を有事に持ち込んではいけない

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やりたいこと、やらなくてはならないことはたくさんある。しかし、こちらを立てればあちらが立たず、批判、反対意見にオロオロする。

そうしているうちに時間を浪費するばかりか本来の目的を見失い、足して2で割る誰もハッピーではないが言い訳は立つ案が選ばれる構図である。減点主義で発想する限り、本質には迫れない。

清水勝彦(しみず・かつひこ)/慶應ビジネススクール教授。東京大学法学部卒業、ダートマス大学エイモス・タックスクール経営学修士(MBA)、テキサスA&M大学経営学博士(Ph.D.)。株式会社コーポレイトディレクション(CDI)にて10年間の戦略コンサルタント、テキサス大学サンアントニオ校准教授(テニュア取得)を経て、2010年より現職。2012年より仏エクス・マルセイユ大学経営大学院でも教鞭を執る。専門は、組織変革、戦略実行、M&A。Strategic Management Journal、Journal of Management Studiesなどの編集委員を務める。著書に『あなたの会社が理不尽な理由』『戦略と実行』『戦略の原点』などのほか、学会のトップジャーナルに英語論文も多数発表。株式会社ドリコム(マザーズ)取締役監査等委員(写真:筆者提供)

もしコロナ問題が「戦争」であれば人は死ぬ。そう言うと「人が死んでもいいのか」と言い出す的外れな空想家が必ず現れる。

間違えないでほしい。「人が死んでもいい」とは言っていない。「戦争では人が死ぬ」という現実を見て対策を立てなければいけないと言っているだけである。その現実を見ないで、戦争をする前にどんどん死人が増えているように思われる。

限られた資源を配分して戦争に勝つには、戦略が必要である。そして、戦略の要は資源の集中、つまり多くの「やりたいこと」から、どうしても譲れないものを選別し、そこにまず投資を集中することである。ボーリングでいえば1番ピンを目指すのであって、10本のピンを1つひとつ倒そうというような発想は捨てなくてはならない。

逆に言えば、コロナ対策だけでなく、戦略には必ず「反対意見」が出る。「弱者切り捨て」「うまくいかなかったらどうする」「諸外国では」など、9番ピンあたりにいる人や観客がいろいろなことを言う。

戦略的とは加点主義であること

先日亡くなったハーバードのクレイトン・クリステンセン教授の名著『イノベーションのジレンマ』では「顧客の声を聞きすぎると失敗する」という指摘があったが、そうした声を聞きすぎると失敗する。いや、聞いたほうがいいのだが、本質がぶれてはいけない。

消費税の8%と10%の問題もそうだったが、さまざまなステークホルダーの意見を聞きすぎて万人受けする策を作ろうとし、幹と枝がごっちゃになり、本来の優先順位がわからなくなっているばかりか、膨大な実行コストがかかる。

つまり、「突っ込みどころをできるだけ減らす」策を立てたため、誰もがおかしいと思うものが出来上がる。本来存在しない空想の100点をベースに減点主義が持ち込まれているからだ。

減点を最小化するのではなく、本来の目的に対する効果を最大化する、つまり、加点主義でなくては、戦略的とはとても言えない。これは平時でもそうだが、時間が限られる有事ではなおさらだ。

新しいこと、とくに今回のコロナ対策のように、不確実性が高い状況での施策は、何をやろうとしても、必ず何か言われる。「30万」と「10万」を見てのとおりである。反対意見で参考になるところは当然取り入れたらよいのだが、反対意見があるからできないというのは怠慢でしかない。

反対意見は、できない言い訳ではなく現実の前提だ。そして、注意しなくてはならないのは、企業にしても政治にしても反対者が大きな声をあげることだ。「現場の声」はサイレントマジョリティーであることも多い。

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