「批判回避」が巨大な「機会損失」を生み出す理由 「減点主義」を有事に持ち込んではいけない

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機会損失の根源は、優先順位がはっきりしないことである。少数意見に振り回されて、資源を浪費することだ。繰り返しになるが「少数意見を無視しろ」と言っているわけではない。順番を考えろ、1番ピンを外すなというだけである。コロナ問題が長引けば、多数だろうが少数だろうがすべてが失われる。

その意味で、首相にしても都知事にしても「現実直視」と「優先順位の共有」に関して、もう少し力を割くべきと思われる。「外出をできるだけ控え、三密を避ける」ことは重要だとしても、それが十分伝わっていない。

「危機感を持て」とリーダーが叫んでも、何も変わらない企業と同じである。結果として、例えば本来「食料品の買い物は仕方ない」はずが「食料品の買い物は出かけてもよい」と解釈され、スーパーや商店街が混雑している。

「国民(あるいは社員)の意識が低い」と嘆く政治家やリーダーがいるかもしれない。しかし、それで終われば政治家、リーダー失格である。「危機感を持て」なんて、誰でも言えるし、それで全員が変わるのならリーダーはいらない。政治家やリーダーが存在するのは、ピンとこない国民や社員に本当の危機感を持たせるためであることを忘れないでほしい。

東京オリンピック招致プレゼンテーションのコンサルタントを務めたニック・バーリー氏を慶應ビジネススクールでの講義にお招きしたことがある。バーリー氏は「イマジネーション」の重要性を強調された。言葉でわかったつもりになっても人は変わらず、自分がどのような状態か「頭に絵が浮かぶ」、つまり、想像ができて初めて人は動くというのだ。

「してはいけない」だけを繰り返すのではなく、「こうなりたいから、仕方ないけどこれはしない」と想像できるゴールとセットにしなくては、「そんなこと言ったって」とか、「俺は大丈夫」と言い訳をするのが人間なのである。

強いリーダーシップとは独裁ではなく、人々の想像力をかき立てることではないのか。そのためには、同じ立ち位置、つまり、重要な情報がきちんと共有化されていることが前提になる。

危機があぶり出す意味のない「当たり前」

こうした機会損失のコンセプトをコロナ問題がらみで個人や企業レベルに当てはめると、2つのことが言えそうである。1つはこれまでの機会損失、そして、もう1つは今の機会損失である。

経営学には「イナーシャ(慣性)」という非常に重要なコンセプトがある。一言でいえば、ルールやルーティンを作ると、組織も個人も「当たり前」と思い、なかなか変わらない現象を指す(機会損失の2番目にあたる)。

意味ない手続きを求められ、なぜかを聞いたところ、「ルールですから」と返された経験は誰にもあるだろう。そして、この慣性は組織構造やルール、行動パターンだけでなく、ものの見方、考え方にもある。

そう考えてみると、コロナのような「危機」は「慣性」を打ち破る非常に大きなチャンスである。例えば、多くの企業が否応なくテレワークに移行せざるをえなかったが、そうした働き方が物理的に変わることでこれまでの無駄、機会損失が見えてくることがあるのではないか。さらに言えば、「なぜこれまでオフィスで働かなくてはならなかったか」についても、もう一度考える機会になると思われる。

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