「批判回避」が巨大な「機会損失」を生み出す理由 「減点主義」を有事に持ち込んではいけない
昨今のコロナウイルスへの対応もそうだ。専門家はもちろん、マスコミ、芸能人など、さまざまな意見が飛び交っている。誰もが真剣に考えているはずだが全体としてうまくいかない。さまつな点にこだわって、本当に重要なことが実行できずにいる。
こうした教訓は、企業経営においても当てはまる。この危機は、今までのなんとなく踏襲してきた意味のない「当たり前」をあぶり出し、「原点」と「本質的価値」を突き詰める契機でもある。
『機会損失――「見えない」リスクと可能性』の筆者である経営学者の清水勝彦氏は、組織変革と戦略実行の分野で、グローバルに活躍する研究者である。
今回は、「機会損失」を最小化するために何をすべきか。そして、将来に備えて、企業とビジネスパーソンが本当にすべきことを論じる。
政府の対応に見る3つの「機会損失」
コロナウイルスへの政府の対応に、専門家はもちろん、マスコミ、芸能人など、さまざまな意見が飛び交っている。誰もが真剣に考えているはずだが全体としてうまくいかないという、多くの残念な企業に見られる現象が、ここでも見られる。
時間も資源も限られた中で行う意思決定はもちろん難しいが、政府の対応の優先順位がおかしいのではないか、さまつな点にこだわって実行が遅れているのではないかという「機会損失」を多くの読者は強く感じられたのではないか。
最大の特徴がはっきり見えない機会損失には3つのものがある。
(1)あることをすることで、何か別のこと、往々にしてより重要なことができないことである。「布マスクの配布に数百億円」はこれにあたるだろう。これだけの費用を医療関係のもっと重要なところにかけたほうがよいのではないか。
「昭恵夫人の行動」もそうだ。問題かもしれないが、貴重な国会の時間を使って議論するべき重要な議題はもっとあるはずだ。
(2)プロセスに時間をかけすぎて、やるべきことが遅れることも見られた。そもそも「30万円」に決まるまでには相当な時間と労力がかかっていたと思われるが、それが「10万円」に変更されることで、さらに資源が使われ、実行も遅れる。全体の流れを見ていると、すったもんだして決まった後、実行には何カ月もかかるという話が少なくない。「スピード感が重要」なら、なぜ実行期日から決めて議論をしないのか不思議である。
逆に、さまざまな認可に数カ月かかると言われるが、必要なのはサンプル数であったりチェックであったりするはずで、なぜ数カ月ありきなのか、不明な点も多い。ルールや前例を守ることが目的になり、本来の目的が達成できないことが起きている。
(3)批判あるいは後悔を恐れて、いろいろなことを考えすぎて本当に重要なことができなくなる機会損失もある。
実は、今回は(3)の機会損失が最も大きいように思われる。
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