東京における新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。若者らの飲み会やカラオケ、中高年のクラブやキャバクラ通いなどによる集団感染が広がるなか、医療の現場では未知のウイルスとの厳しい闘いが始まっている。パニック寸前で踏みとどまる医療現場の窮状を知る東京都医師会の尾崎治夫会長は、いつまでも緊急事態を宣言しない国の姿勢に怒りをぶちまける。「国会に閉じこもっていないで、現場を見に来い!」。この国難に都民の命を守る医療体制維持のために奔走する医師のトップの動きを追うと、感染爆発を目前にした医療の窮状が見えてくる。
尾崎会長がFacebookに投稿をアップしたのは3月26日の深夜だった。スマホでつづった「東京都医師会長から都民の方にお願い」と題した文章には、ロボット犬の「アイボ」が撮った自分の写真を添えた。会長室にあるアイボの前にしゃがみ込み、赤いボールを手に笑みを浮かべた写真だ。投稿は「平和ですね。でもこうした平和が、あと2、3週間で崩壊するかもしれません」との文言で始まる。
若い方々、もう少し我慢してください
東京での感染者の急激な増加に危機感を抱き、「今が踏ん張りどころなのです」と語りかける相手は若い世代だ。アクティブに行動する彼らに向けて「もう飽きちゃった。どこでも行っちゃうぞ…。もう少し我慢して下さい。(中略)密集、密閉、密接のところには絶対行かない様、約束して下さい。お願いします。私たちも、患者さんを救うために頑張ります」
東京都医師会長という、お堅い職にしては型破りな投稿にメディアも注目しネットニュースやテレビで取り上げられた。ふだんのFacebookでは、ほとんど医師会の話には触れないが、「政府も政治家の動きも鈍いなか、命を預かる立場として声を上げなければならないという切実な思いだった」と振り返る。
つい2週間ほど前の3月中旬、東京と同じように小康状態を保っていたイタリアやスペイン、それにアメリカ・ニューヨークの感染者数が、瞬く間に何倍にも膨れ上がって医療崩壊につながっていった。やがて日本にも押し寄せてくる覚悟は決めている。だが、通勤時間帯は相変わらずの人混みで、小池百合子都知事の外出自粛要請にもかかわらず、街は若者で賑わい、海外旅行に出かける学生も少なくない。彼らだけを責めるわけではないが、ひとたび感染者が上向けば指数関数的に増えていくのは海外の例から予想できる。でも、それからでは遅いのだ。
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