伝染病で26年以上も隔離された女の数奇な人生 腸チフス菌を持ち続けたメアリーが受けた差別

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自分よりも弱い立場に貶められた人を見つけ、その人をもっと貶めて喜ぶのが人間の変わらぬ性とすれば嘆かわしい(写真:phoelix/PIXTA)

いつ収束するのかわからないのだから、新型コロナウイルスに恐怖心を抱くのは当然の話だ。ましてや、自分や家族がいつ感染してもおかしくない以上、不安も必然的に高まっていくだろう。

だが、荷物を運んできた宅配便のドライバーが、玄関先でいきなりアルコールスプレーをかけられたなどという話を聞くと、複雑な思いを抱かずにはいられない。

有事の際には、そういった理不尽で差別的な話が飛び込んでくるものではあるが、人間の醜い側面を見せつけられるようで、気持ちのいいものではない。

しかし、そんな時期だからこそ、読んでおくべきだと感じる書籍がある。『病魔という悪の物語 ―チフスのメアリー』(金森 修著、ちくまプリマー新書)がそれだ。

「チフスのメアリー」の実話

19世紀末期、ニューヨークに蔓延した腸チフスをまき散らしたという疑いをかけられ、「チフスのメアリー」という不名誉な名称までつけられたメアリー・マローンという女性にまつわる実話である。2006年3月に刊行されたものが、このたび復刊された。

これは、ある一人の女性の生涯の物語だ。その女性は、料理がとてもうまい人だった。子どもの面倒見もよく、雇い主からは信頼されていた。だから、料理に存分に腕をふるい、雇い主にも信頼されてそのまま生活していけたとすれば、貧しいながらも、それなりに幸せな人生だったろう。
だが、その女性には過酷な運命が待っていた。三七歳になったあるとき、突然、自分自身には身に覚えもないことで、公衆衛生学にとっての注目の的になり、その後の人生が大きく変わっていく。突然、自由を奪われ、病院に収容されるのだ。(「はじめに」より)

ことの発端は、召使いとして働いていたメアリーが、腸チフスにかかっていることがわかったことだった。彼女自身の健康状態は良好だったのだが、つまりは菌を体内に持ち続ける「健康保菌者(キャリア)」であったのである。

そのため、彼女が作る料理によって他人が感染してしまったのだ。とはいえ本人にとって、それは寝耳に水としか言えない事態だった。身に覚えがないのだから、当然といえば当然である。

しかも、そのときから彼女は納得しがたい状況に置かれることになるのだ。

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