伝染病で26年以上も隔離された女の数奇な人生 腸チフス菌を持ち続けたメアリーが受けた差別
ところで腸チフスとは、どんな病気なのだろう? 著者は「私は医師ではないので」と前置きをしながらも、この点についてわかりやすく解説している。
いま現在コロナ禍と対峙しているわれわれから見れば、どことなく新型コロナを連想させる部分もあるが、いずれにしても当時の患者をどれほど苦しめたものであったかは容易に想像できる。
偏見が生み出した不幸
1907年のニューヨーク市内でのチフス患者は4426人、1908年は3058人。アメリカ全土では、当時だいたい毎年20万人前後の患者が発生していたそうだ。
発生率は3%だったというが、仮にそれを正しいとするなら、1907年のニューヨーク市には132人、1908年の同市には91人のキャリアが誕生し、アメリカ全土では毎年6000人の新たなキャリアが発生するという計算になる。
しかも、それぞれのキャリアは病院のベッドでじっとしているわけではなく、仕事をしながら日常生活を送っている。そのためキャリアたち全員を特定し、拘束し、観察し続けることは到底不可能。それは、関係者の誰もが理解していることだった。
なのに、メアリーだけが監禁生活を強制された。そこに絡んでくるのは、移民に対する偏見である。
つまりは純粋に客観的な科学的判断に基づいているのではなく、人種や文化などにまつわる偏見がバックグラウンドにあるということなのだろう。
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