今こそ「都市イノベーション」に舵を切るべき訳 「元には戻らない世界」で私たちがすべきこと

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それには、これまで無意識的に縛られてきた思考形態や経営システムを脱却しなくてはならない。組織の古いマインドセットを脱ぎ去って、新たな経営システムを構想し、確立しないとビジョンもその範囲を超えない。求められているのは経営意識のイノベーションなのだ。

それはいわゆる「日本的経営の復権」でも、世界標準のグローバル経営の採用でもない。新たな産業の創造につながる、「世界に普遍的な視点を日本から発信する」姿勢が不可欠だ。

人間の、人間によるイノベーション

今、世界の優良企業が、ある一点をめざして大きく舵を切っている。それは、効率性や利益で経営を基礎づけるのでない、目的と社会のイノベーションに基づく「経営の人間化」である。

これは筆者が登壇した2018年にウィーンで開催されたグローバル・ピーター・ドラッカー・フォーラムのテーマでもあった。昨年はアメリカのCEO約200名が「目的とイノベーション」の経営に向かうべきだとする共同宣言を行っている。

もちろん、環境も重要で、単純な人間中心ではいけない。しかし、「人新世」の時代と呼ばれるような現在、人間のあり方は地球のあり方に重なる。

けれども、これまでの経営やイノベーション理論には、おしなべて「人」の姿が見えなかった。それに対して、客観性・合理性重視の経営では排除されてきた、私たちの主観性が重視されつつある。知識社会・経済のイノベーションは、主観的な人間の知識創造の力が組織や社会をつなげることから起きるだろう。

しかし、それは「結局は人の問題だよね」ではない。人間のポテンシャルをいかに引き出すかが焦点になる。そのエッセンスとして挙げたのが4つのPである。私たちや組織のPerspective(観点)の変革を下地に、Purpose(目的)、Passion(共感・情動)、Place(場所)の3つを綜合する。

これらの人間的要素がなければ、イノベーションは起きない。ここでいう目的とは当然、自社の競争力を高めたいといったものではなく、共通善を志向するような大目的などを指す。

この3つの要素(目的、共感、場所)は、実は人間の脳のデザイン(知性脳、感情脳、運動脳)とも関連している。

イノベーションは、人間が新たな観点に基づいて、世界を生み出していく物語りの行為だ。他者のストーリーをなぞるのではない。オープンな対話を通じて多様な観点を収集し、社会との共感をもとにチーム、場を創り出し、大目的と駆動目標に落とし込み、物語りつつ実践するという行為だ。

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今、世界を見渡せば、従来のように「強い」リーダーが1人で状況を打開する能力を発揮できるとは考えにくい。例えば、リーダーとフォロワーといった従来型リーダーシップの終焉もいわれている。21世紀に最も重要なのは、融和のための対話力、構想を実現できる創造的知性だろう。

結局、「私」(読者)が、ある意志を持って行動するから、「世界」が変わる。その主観や共感の行動が、どれくらいインパクトを生み出せるかがカギだ。周囲の人々はそれを見て、思考や行動を変えていく。つまり、「生きる」ようにして、日々のイノベーションに関わることが求められている。

紺野 登 多摩大学大学院教授

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こんの のぼる / Noboru Konno

1954年東京都生まれ。1978年早稲田大学理工学部建築学科卒業。博報堂勤務などを経て現職。博士(経営情報学)。慶應義塾大学大学院SDM研究科特別招聘教授、エコシスラボ株式会社代表、一般社団法人Future Center Alliance Japan代表理事、Japan Innovation NetworkのChairperson、日建設計顧問などを兼務。約30年前からデザインと経営の融合を研究、知識生態学の視点からリーダー教育、組織変革、研究所の場のデザインなどの実務にかかわる。主な著書に『ビジネスのためのデザイン思考』、野中郁次郎氏との共著に『知力経営』『知識創造の方法論』などがある。

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