こうした社会変革のイニシアチブは、コロナの影響にもかかわらず都市が単位になるだろう。21世紀は地球規模で都市への人口集中が進む「都市化の時代」だ。そこでは、生活世界を営む市民が主役になる。従来の発想を超えた都市の構造と政策が、これからまた繰り返しやってくるさまざまな災害に対しての復元力(レジリエンス)を左右するだろう。
循環型経済都市もその一例だ。いわば免疫力の高い都市だ。新型ウイルス対策も、都市の単位のイニシアチブが不可欠なのだ。
本質的価値を語れ
東京都民として自宅待機する筆者のもとに、環境配慮で知られるアメリカのアウトドア衣料メーカー、パタゴニア社からカタログが送られてきた。商品情報は少なく、ほとんど同社製品のフィールドテストについての哲学を語っている。モノとしての機能は大変高いが、彼らが追求しているのは、むしろ人間としてのあり方や地球への配慮だ。
この四半世紀、「モノからコトへ」という言葉で、「機能的価値から意味的価値へ」という主張が繰り返されてきた。しかし、結局はモノの世界の中の出来事だった(図の左)。しかし、コロナウイルスを機に、潜在的だった世界が現れることになった。
それは、人間・社会的価値をベースにした本質的価値の体系だ。私たちが生きていくための価値。それは単にマズローのベーシックな生理的・安全欲求というものではない。むしろ、人間の尊厳や美徳を基盤として美的価値(アートやデザイン)を追求することだ(図の右)。これがこれからのイノベーションのグラウンド・ゼロなのではないだろうか。
製品に意味的価値で付加価値づけする(ブランドやソリューション)、といった発想から、人間・社会・地球にとって本質的な価値を持つ領域でのイノベーション 、製品・サービスの開発への転換。
ここで重要なのがデジタル技術だ。しかし、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の根底には人間の問題があることを忘れてはならない。デジタル化する世界に住む人間がいかに尊厳を失わずに、高質な経験を通じてよりよい社会を創造できるか、というデザイン思考が原点のアイデアだった。その本質を見誤らないようにしなければならない。
イノベーションとは非連続性の経営である。古いルールは役立たない。今、多くの企業は、生存をかけて奮闘している。ただ、現状の危機を脱するためのBCP(事業継続計画)も重要だが、あえて言えば、今こそその先の対応のときだ。
しかし、単にビジョンを描くだけでなく、将来の存在意義や本質的価値提供のための自己変革がカギだ。
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