知的・精神障害者の知られざる「就職」の実態

2つの事例にみる保護者や教諭の切なる思い

男性が特別支援学校に在学していた時に就労支援をしたのが、進路指導担当の教諭として勤務していた田村康二朗氏(現都立光明学園統括校長、60歳)だった。

男性の進路指導担当の教諭だった田村康二朗氏(現都立光明学園統括校長)(筆者撮影)

「男性は手先が器用で、作業に黙々と取り組む力を兼ね備えていた。障害の有無にかかわらず、生徒の抜きん出た力を見つけ、それが役立つところへ導くのが、教育者の務めだと私は考えている」(田村氏)

同氏は、男性が高校2年の時(1992年)に当時のキューピットワタナベ社長、渡辺道代氏(現会長)のもとへ通い続けた。「2週間の産業現場における実習として(男性を)受け入れてほしい。その後、可能ならば雇用をご検討いただきたい」と依頼した。道代氏が以前、福祉施設に長く勤務し、障害者の雇用に理解が深いことを早くから知っていたのだ。

約1000社中採用を受け入れたのは5社

「産業現場における実習」(以降、「現場実習」とする)は、東京都教育委員会および職業安定所(ハローワーク)で承認された学習である。障害者の労働能力の向上、労働意欲の喚起、対人関係の調整など、社会自立を促す重要な学習の機会と考えられている。企業が賃金などの報酬を支払う必要はない。現場実習先の企業までの交通費は、東京都が本人へ支給する。

キューピットワタナベで働く男性(写真:キューピットワタナベ)

田村氏は当時、勤務する特別支援学校に在学する高校生を就職させるために、多摩地域の企業を中心に年間で990社ほどにコンタクトし、「現場実習を受け入れてほしい」と頼んでいた。そのうち、約30社が実習を受け入れた。企業が現場実習中の適性や勤務態度などを評価し、採用する意思を田村氏に伝えたのは年間で約5社。1992年はその1つが、キューピットワタナべだった。

道代氏は「教諭の姿勢に心を打たれた。障害者が職場で適切に評価されるようになり、働く喜びを感じとらせたいと盛んに(私を)説得された」と振り返る。田村氏は道代氏が男性の手先が器用で、作業に黙々と取り組む力を現場実習中に高く評価していたことを見抜いた。入社後、仕事の進め方に強いこだわりを持つこともあらかじめ予測し、それを道代氏が治す力があるとも判断した。

「男性は、自らの作業の進め方を常に正しいと信じ込み、指示を受けても変えようとはしないだろうと私は思った。作業の仕方を新しいものに変えるためには、本人が新しい方法をすることが楽しく、気分がいいと思えるほどに繰り返しさせないといけない。雇う側がそこまで丁寧に、丹念にできるか否か。渡辺会長はそれができる力や見識をお持ちの方とお見受けし、現場実習や就職を依頼した」(田村氏)

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