知的・精神障害者の知られざる「就職」の実態 2つの事例にみる保護者や教諭の切なる思い

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理事長の髙森氏によると、健常者は1日800本ほどのおしぼりを包装するが、(生徒は)最初1日200本ほどだった。加藤氏や母親が言葉では理解しにくいことは手本を見せて、教えた。今では、障害者56人のうち、トップレベルになったという。

生きると思える職場をみつけた

ここで紹介した2人の障害者の就職は比較的スムーズに進み、長期雇用に至っている。その原動力は、2人の教諭と雇い入れた会社やNPO法人の力によるものだ。何よりも障害者の特性や性格、適性を見抜き、それが生きると思える職場を見つけ、2社に熱心にアプローチした教諭の力だと私は思う。加藤氏の次の言葉が、強く印象に残った。

「あるレストランで、私が勤務した特別支援学校の卒業生が厨房で調理をしていた。人事異動で店長が変わると、その仕事を取り上げてしまった。新しい店長は障害者には調理を作らせない、といったお考えだったようだ。卒業生は失意の退職をした。
企業は障害者を雇う意味をどうか、お考えいただきたい。特別支援学校の新卒の場合、生徒の卒業は保護者や家族、障害者支援施設や支援機関の職員たちの長年の支援の集大成によるものだ。卒業を喜ぶ人が生徒の周囲には多い。
当初、法定雇用率の達成や企業イメージの向上、法令順守を理由に雇う場合が多い。だが、採用担当者や現場の社員は障害者の人間的な魅力、例えば、素直な性格や黙々と努力する姿勢を次第に評価するケースがある。障害者が、職場を変えるきっかけになるかもしれないのだ」

今回取り上げた障害者の就職の舞台裏は、新聞やテレビのマスメディアではほとんど報じられない。障害者の就職の舞台裏には健常者の就職で見失いがちなことが凝縮されている。

2人の教諭が障害者の職場を探す執念に近い思い……。取材の場で教諭にじかに接している筆者も、その静かな迫力や情熱にこみ上げてくるものがあった。障害者の就職から学ぶものは多い。健常者は、この事実にもっと目を向けるべきではないだろうか。

吉田 典史 ジャーナリスト

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よしだ のりふみ / Norihumi Yoshida

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』(ダイヤモンド社)など多数。

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