「役に立つ力」ばかり研ぎ澄ます日本企業の盲点 山口周×水野学「今必要とされる価値は何か」
山口:日本の場合、水野さんが言うところの「文明タイプ」というか、もともとある組織能力として、BtoBの仕事が得意な企業は多いと思います。なぜなら、かつては世の中にもたくさん問題があったので、BtoB的な「役に立つ」という能力がBtoCの市場でも生かせたからです。
パナソニックのようなメーカーが、わかりやすい例でしょうね。身近な不便を解決してあげる、「役に立つ製品」をつくることが価値の提供だった。
でも今は、「不便だ」とか「使い勝手が悪い」といった世の中の身近な問題がほぼ解決されて、文明的に行くところまで行ってしまいました。そこで水野さんがおっしゃる「文化の出番」になるわけです。
水野:そうか、「文明=役に立つ」で、「文化=意味がある」と言い換えることができますね。そして企業は、「役に立つ」と「意味がある」の分かれ道に立っている、と。
山口:あえて二極化させたら、組織の能力は「役に立つ」と「意味がある」の2種類しかありません。そのうえで、「自分たちはあくまで、『役に立つ』の道に進むんだ」と決めた会社もある。そういう会社はインフラを整えるとかダムを造るといった、BtoBの仕事に集中していきます。
なぜかと言えば、BtoBなら「役に立つ」という市場で戦えるからですよ。その業界ごとの役に立つ物差し、つまり「正解」がありますからね。例えば「このダムの発電効率は」みたいな物差しが業界ごとにあるわけじゃないですか。
水野:まさにおっしゃるとおりですね。僕は以前、とあるメーカーの携帯電話の仕事をしていて、彼らがBtoCの携帯事業から撤退する瞬間に立ち会ったことがあります。関わっていたプロジェクトがバーッとなくなっていって、「あ、この人たちはBtoBにいくんだな」と肌で感じました。
山口:産業史の貴重な1ページを現場の当事者として目撃したわけですね(笑)。
「意味がある」という価値を生み出す経験
水野:実際、一緒に仕事をしていて感じますが、日本のメーカーは「役に立つ」が飽和しても、「意味がある」という価値を世の中に出していける能力もちゃんと持っているはずなんです。人が使うモノをつくっているわけですから、いろいろやりようがあると思います。
でも、「意味がある」という価値を生み出した経験がなく、組織の中にもその土壌がない。
山口:確かにそのとおりですね。「役に立つという能力」の裏打ちは論理とサイエンスとスキル。つまり正解があるからやりやすいわけです。市場調査でデータを取ると、「とにかく性能を上げるべきだ」という結論になるのはそのためです。
水野:僕が何よりも嫌いな市場調査(笑)。あれに振り回されるのは、本当に意味がないですよ。
山口:だから水野さんは、「意味があるという能力」を追求しようとしているんでしょうね。「意味がある」の裏打ちとなるのは、水野さん的に言うと知識を積み重ねてつくり上げたセンスだし、僕なりの解釈で言うとアート、直感、質を上げる、といったことだと思います。しかし、これは多くの組織にとって難易度が高いから、諦めてしまう。