──事前のパブリシティーが少なかったのに、異例の大ヒットしたケースとしては東風さんが配給している『主戦場』が好例だと思いますが。
たしかにメディアとしては取り上げづらいというのは、あったと思うんです。映画だからといっても「従軍慰安婦」の問題を扱うというのは。けれども、劇場に人が入っているという現象を見て、公開後に取り上げられるようになったのは、むしろ追い風にはなりました。
『主戦場』は、従軍慰安婦をめぐる論争の中心人物に取材、検証していくドキュメンタリー映画。上映後、出演者から上映差し止めなどを求める訴訟が起こり、さらにはKAWASAKIしんゆり映画祭では、市側が懸念を表明していったん上映が中止(多く映画関係者から抗議があり、結果的に上映が実現)されるといった事態が起こっている作品だ。
しかし、渋谷のシアター・イメージフォーラムでの単館上映からスタートした『主戦場』は全国61館、7万人以上の動員を記録するに至った。
トラブルを恐れて配給しないことはない
──デザキ監督は無名の存在で、これが初作品。配給を決めたポイントは何だったんですか。
私自身が、従軍慰安婦の問題に強い関心を持っていたわけではありません。一般的な情報を持っていた程度です。釜山映画祭で、大矢英代さんという『沖縄スパイ戦史』を共同監督をされた方がこの作品を観て、デザキ監督にうちを紹介してくださった。うちは作品を見せてもらってから配給するかどうか決めるわけですが。いろんなことが頭をよぎりました。
当然、この作品を公開したら起こるであろう問題はある程度想像できました。しかし、それを理由にこの作品を公開しないというのは、惜しい。なにより一言でいうと、映画作品として面白い。
両論併記がいいかどうかはさておき、これまで従軍慰安婦の論争を誰も怖くて取り上げようとしてこなかった。それを正面からやって、見せきっている。笑える部分もありエンターテインメントとして仕上がっている。従軍慰安婦の問題を社会に対して訴えていきたいから公開したというわけではないんです。結果として、女性の性被害の問題を考えるきっかけになるとしたらうれしいですが。
──まず映画として公開に値するか否かで、判断している?
そうです。これは第1作を配給したときから同じで、何かしらのトラブルが予見されるからといって、それを恐れて公開しないということはやっちゃいけない。そう思っているんですね。まあ、そう言いながら半分やせ我慢もありますが。
──作品について現在、右派の論客から訴訟を起こされている問題点(インタビューには応じたが劇場公開は了承していないなどの主張)については、どうだったんですか。
デザキさんからは、作品の製作過程についてはひととおり聞きました。そのうえで、問題はないと判断しています。民事裁判は昨年の9月に始まっていますが、なかかな進んでいません。これ以上は訴訟案件なので詳しくは言えない状況です。しかし、訴えられて困ったというのはないですね。応援団を募るということはないですが、気にしてくださっている人も多いですし。自分たちの正当性は確信していますから。
──今やドキュメンタリーといえば「東風」というイメージがついてきましたが。
まあ、ほかがあまり手をださないニッチところだから。とにかく、大きくならなくてもいいから、すこしでも長く続けたいですね。
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