「さよならテレビ」を支えた映画配給会社の信念 ドキュメンタリー配給で定評「東風」社長語る

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出だしはよかったんですが、東日本大震災があって、数字は出なかった。ただ、東海テレビとしても1本やったら終わりということではなく、何本かやってみないとわからない。続けて阿武野さんがプロデューサー兼共同監督を務めた『青空どろぼう』(2011年)も、客が入らないありさまでした。

しかし、2012年の第3弾『死刑弁護人』(齊藤潤一監督)では、多くの観客を動員することができた。これは和歌山毒カレー事件や光市母子殺害事件を担当した弁護士を追った作品です。このヒット以降、テレビで放映したものの中で劇場公開したいものがあると、阿武野さんから相談がくるという関係になりました。

待ち望んでいた『さよならテレビ』

──木下さんのほうから、テレビ放映された中でこれを映画にしませんかというような話をされることは。

やりたいというふうに言うこともあります。『さよならテレビ』はまさにそんな作品です。作っているときから放映されたらぜひやりたい。というのも、私たちは東京にいて、東海テレビの作品をリアルタイムで見ることはできない。

でも、『さよならテレビ』は製作中から気になっていました。東海テレビの報道局の中の自身の姿を映す、と聞いたらもうやりたくてしかたないですよ。放送が2018年9月。そこから劇場公開まで1年3カ月。その間、社内での調整があったと聞いています。

自社のテレビ局を取材対象にしたドキュメンタリー『さよならテレビ』が大ヒット。配給・宣伝は東風が担う ©東海テレビ放送

──私は正直、試写を拝見したとき、こんなに当たるとは思わなかったし、メディア論にもそんなに関心もなかった。ただ、3人の主要人物、とくに派遣社員の若者のことが映画を観終わってからもずっと気になった。それで公開前に監督にインタビューさせてもらったことがありました。

客層の中心は、メディアに関わる仕事をされている人なんでしょうね。でも、視聴率に奔走するのを一般の会社に置き換えれば、売り上げを重視して、本来やるべきことが疎かになってはいないかという葛藤を抱えながらも日々を過ごす。派遣社員や契約社員の問題はどこの会社にもあることで、普通に共感してもらえる要素は多いと思っていました。

ただ観た人の立場によって、見え方は異なるんだろうとも思っていて。例えば先日ラジオで伊集院光さんが、福島(智之)アナウンサーのことが気になって見ていて、涙を流したとおっしゃっていたんですよね。

私は、中間管理職である人たちや派遣社員の渡邊(雅之)くんに気持ちが入ってしまいます。私自身が、現場では仕事ができない、気が利かない人間だったから、彼の心情がよくわかる。不器用なところとか。だけど映画評で、彼のような人を現場に入れるようになってしまったことがおかしい、というような書き方を見ると、なんでそういうふうに簡単に人を切り捨てるんだろうかと思います。

映画の公式ツイッターを見ていて面白かったのは、この映画に対するツイートの多さに驚くとともに、ネガティブなコメントをもリツイートし紹介している点だった。「いろんな見方がある」ということを発信することは、映画にはマイナスにはならないとの判断だという。

──配給宣伝会社としてやらないといけないことは何ですか。

映像を言葉にして伝えることのお手伝いだ、と思っています。予告編をつくることであるとか。実際に広めてくださるのはメディアの方々なので、そのお手伝い。あとは映画館を決めていく。

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