──自社で映画はつくらない?
それはやっていない。うちの会社がこれまで傾かずに続けてこられたのは、自社で映画を作っていないから。映画製作はバクチの要素が大きすぎるので。それに会社を大きくしたいという野望もない。
扱う作品が劇映画でなく、ドキュメンタリー映画が多いというのは、ドキュメンタリー映画はインディペンデントの人たちが多い。彼らは自分たちで資金を集めて製作している。それに対して、劇映画は「製作委員会方式」が多数で、出資者を募ってから始める。その場合、配給会社も出資することになるのでリスクがあります。
お客さんが観に来てくれるかが判断基準
つまり、ドキュメンタリー映画の配給なら、作品が完成したところから関わる形になるので、リスク回避できるというわけだ。意外だったのは、配給作品の選定判断は社長決済ではなく、「全員で見て決める」という方式だ。判断基準としては「劇場で、この作品を観るお客さんがイメージができるか」が1番のポイント。「社会的な意義」は下位になるという。
軸になるのは、観に来てくれるお客さんが具体的に浮かぶかどうか。それは、自分たちがアプローチするときに重要になるから。2番目は、自分たちがこの映画を観客に見せたいと思うかどうか。この2つが最も重要で、あとは会社としてのタイムスケジュールですね。いまの人数では1年間に配給できる本数に限りがあるので。
──中堅以上の配給会社は、パブリシティーを専門とする会社に「宣伝」を外注することが多いようですが、「東風」の場合は社内で行う。それも1つの作品に総員でとりかかっている。そのあたり特異ですよね。
配給宣伝という仕事は、好きでないと続けられない、人の出入りの激しい業界なんです。そこで続けていくには好きだけでなく、モチベーションをあげていかないといけない。会社が安定してからは、請負仕事を減らし、リスクも背負う形に変えた。つまり製作費は負えないけれど、配給宣伝費についてはうちが負担する方式に変えました。
映画製作はいつ完成するのか見えないことが多い。製作期間が延びればお金がかかり続ける。会社としては、そうしたリスクにタッチはしないが、劇場への配給と宣伝費を負担することで興行収益の分配を受け取るという立場をとってきたという。東風配給のドキュメンタリーの話題作が多いのも、製作段階で資金は精いっぱいという作り手とウィンウィンの関係が築けているということになる。
業界内で「東風」の名前を有名にした東海テレビのドキュメンタリーシリーズは、2011年2月にポレポレ東中野で封切り上映された、戸塚ヨットスクールに密着したドキュメンタリーにはじまる。
――東海テレビの作品を手がけるようになった経緯を教えてください。
東海テレビの作品は2011年の第1作『平成ジレンマ』(齊藤潤一監督)からやらせてもらっています。ただ、映像の権利は東海テレビが保持するという決め事があって、うちとしてはいまも例外的に請負という形でずっとやっています。東海テレビの阿武野勝彦プロデューサーが、テレビで放映した作品を映画として上映したいと考えていたときに、複数の方がうちを推薦してくださった。
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