愛国心でも愛郷心でもない、日本人の教養 山折哲雄×安西祐一郎(その1)

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安西:話は永山則夫氏のほうが深刻だと思いますが、外国に出る若い人たちのほうがむしろ、日本の文化や歴史を考える機会が多いような気がします。

では、そのときの彼らの思いは、愛国心かというと、そのいわゆる国家という意味での日本を愛するのとはまた違う。それから、愛郷心というか、自分の具体的な故郷を思う心ともまた違う。原風景と先生がおっしゃるのはぴったりだと思いますけど、私はなんとなく大地というか、その日本の土を踏みしめて、何かを突き抜けたいちばん底にある帰るところといいましょうか。そういうふうなものを感じる。自分はそういう深刻な経験ではありませんが、外国で暮らしていてそう思いました。

山折:「それこそがまさに教養だ」ということですね。

安西:そうですね。

山折:それをわれわれは見つめてこなかった。

安西:そうですね。「終末期を迎えた日本の大学」というのは、そういう話を抜きにして、外から与えられた知識をただ教壇から流す教育をしてきたということだと思うんですね。

ゆで卵型の日本人、バナナ型の日本人

山折:内村鑑三がアメリカに行って、『余は如何にして基督教徒となりし乎』を書いていますが、最後のところで、アメリカの実質的な社会を徹底的に批判したあと、日本の森、川、自然の風景がいかに大事か、懐かしいかを書いています。愛国心、愛郷心というよりも、もう少し広がりのある、人間の生き方の根源を示すような話です。

安西:そうですね。私が外国にいたときに、そこで成功していた日本人の先輩は、アメリカが大好きで、そこで骨をうずめると常々言っていたのに、亡くなる直前になって「自分の灰は日本に撒いてもらいたい」と言われた。それはとても印象的でした。単なるノスタルジアというのでもなくて、何かがありますよね。

山折:先生はアメリカに何年くらい?

安西:3年です。

山折:かなり長いですね。北米の日系人の間で、こういうジョークみたいな話があります。だいたい日系のアメリカ人というのは2種類いる。1種類は卵型の、ゆで卵型の日本人。もう1種類はバナナ型の日本人。お聞きになったことあります?

安西:いえ、聞いたことないです。

山折:ゆで卵型というのは、外は白、中は真っ黄色、つまりは日本人。バナナ型というのは逆ですよ。皮は真っ黄色、そして中は白。この2種類あると。

安西:なるほど、面白いですね。

山折:今のアメリカに留学する日本の若者たちも、2~3年ではそういうことにはならないかな。

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