永山則夫の精神鑑定からわかったこと
安西:私も、小林秀雄の著作は、『モオツァルト』などいろいろ読みました。『様々なる意匠』も。私自身は小林秀雄、それから小林秀雄に傾倒した江藤淳の書いているものに非常に引かれました。山折先生が言われたように、徐々にそういう時代のあり方を、大学人が察知し始めたというのは、そのとおりかもしれないと思います。
今、大学入試が公で議論されるようになっていますが、たとえば九州大学は以前から、答えのない問題や文理融合の問題を入試に出しています。今、日本の大学生は1学年で60万〜70万人いますが、主体性というか、自分で生きるということをもう少し考えて、実践してほしいと思っています。
山折:3.11の大震災以降、防災、減災が非常に大きな課題になりましたよね。大学でも各専門家の間でも、協力し合った動きが出てきています。
ところが、同時に私が「あれ?」と思ったのは、自然災害のほかに犯罪が非常に凶悪化している事実です。毎日のように殺人事件が起こっています。社会学者は、統計的には殺人事件は減っていると言いますが、体感認識としては増えているという感じが依然としてあります。とすれば、その犯罪防止、犯罪を減らすための大学機関における共同研究や、研究課題の新たな設定といった動きが、もう少し出てもいいのではないかと思いますが、そうした動きはあまりありませんね。
安西:そうですね。犯罪の問題を扱うということはありますが、具体的にその殺人がどうして起こるのか、特に最近の社会の状況の中でどうして起こるのか、またそれをどうやったら解決できるのか。それについての横断的な研究は少ないと思いますね。
山折:私がこうした研究に興味を持ったきっかけは、戦後の連続4人殺人事件として世間を震撼させた永山則夫の事件(1968年から69年にかけて起きた連続ピストル射殺事件。永山は1997年の死刑執行まで、小説家として獄中で執筆活動を行った)と関連しています。当時、精神鑑定を担当した石川義博氏が、犯人と100時間にわたり対面調査を行い、精神鑑定書を書きましたが、最終的に裁判では採用されなかった。
その100時間にわたる対面調査は録音されていたのですが、これまで世間には知らされていませんでした。それを発掘してその全貌を明らかにしたのが、ノンフィクションライターの堀川惠子さんです。岩波書店から『永山則夫 封印された鑑定記録』が出ていますが、すごい作品です。
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