2050年、世界の覇権はどの国家が握っているか 気候変動と第4次産業革命は想定外の要因に

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2050年を待たずに、世界の軍事大国がアジアにひしめくことになる。軍事費で見れば、インドは2015年と2017年に日本とロシアをそれぞれ上回った。ASEAN(東南アジア諸国連合)は2019年、韓国を抜いた。2022年に日本を追い越す。2025年、韓国が日本を抜く。(IMF, World Economic Outlook Databases 2019)

ブラック・スワンは気候変動と第四次産業革命

2050年シナリオのうち、想定外の突然変異的ブラック・スワン現象が起こる可能性がいちばん高いのは、気候変動と第4次産業革命である。

北極の氷は2050年までにはほぼ溶けている。北極海は、世界の主要航路となる。ここは石油・ガス、希少ミネラルの宝庫である。北極沿海国のロシア、カナダ、アメリカ、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、アイスランドと、沿海国ではないが北極を「一帯一路」に組み込み「北極近傍大国」(習近平国家主席)を目指す中国が主導権争いを繰り広げる。ロシアとカナダは、世界最大の穀倉地帯となる。

チベット高原の氷も溶け、ここを源流とするアジアの大河川の生態系を脅かす。旱魃(かんばつ)などで2035年に世界の人口の半分は水不足に直面する。とりわけ中国は深刻である。中国がこれらの河川の流れを変えたり、中国領土内の温度を下げるため特殊剤を大気に散布するなどの大規模な「ジオ・エンジニアリング」を行ない、近隣諸国との間で紛争をもたらす可能性もある。

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第4次産業革命の下、人間も社会も国家も、認識、心理、ガバナンスの面で、スピードについていけなくなる。シリコンバレーが称賛する“ドッグ・イヤー”といった加速化放任主義、つまり、時間を短縮することは善であり、それを規制すべきでないというイデオロギーへの大きな反動が生まれてくるだろう。

“一瞥”して物事を決めなければならない強迫観念の中で、“二瞥(second glance)”する反射神経と智恵とガバナンスが大切になる。異論とセカンド・オピニオンに耳を傾ける寛容と多様性が重要になる。コネクティビティ、情報、頭脳がパワーのカギとなる。乱反射する「攪乱」の連鎖の中で、中道の政治と社会の多様性と開放性を維持できる国がソフト・パワーを手にする。

船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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