2050年、世界の覇権はどの国家が握っているか 気候変動と第4次産業革命は想定外の要因に

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かくして世界は、中国、インド、アメリカの三国志の時代に突入する。ただ、戦略的、軍事的にはアメリカが中国とインドに比してなお優位を保っているだろう。しかし、アメリカが世界にとって「予測できる安定勢力」から「不確実な変数」、さらには「攪乱勢力(ディスラプター)」へと変質するかもしれない。アメリカの最大のリスクは内政である。

その点は中国も変わらない。2030年代の中国は、習近平路線の外への覇権と内での専制に対する「調整」局面に向かうだろう。債務と人口減が成長の足を引っ張る。中国エリート層の海外逃避が止まらなくなる可能性もある。

アメリカの同盟システムは選択と集中が進む

それまでにアメリカの同盟システムは選択と集中が進むと見てよい。人口政治経済学者のニコラス・エバスタットは、人口の増減が同盟の行方にも影響を及ぼすという。「人口が増え続けるアメリカは現在のアメリカの同盟国にとって魅力的な存在であり続けるが、アメリカは人口の減少し続ける現在の同盟国をそれほど魅力的に感じなくなるかもしれない」というのである。(Nicholas Eberstadt)

その場合、アメリカはインドとの提携にさらに傾斜し、中国に対するアメリカとインドの準同盟体制が生まれるかもしれない。

中印ともに海外の自国民の数は飛躍的に増える。中国のマラッカ海峡ジレンマ、インドのホルムズ海峡ジレンマはなかなか克服できない。両国とも海外プレゼンスやエネルギー供給面の脆弱性故に、外への攻撃的、さらには覇権的な姿勢を強める恐れが強い。中印関係は、ヒマラヤ山脈をはさむ内陸の葛藤からインド・太平洋をめぐる海洋の緊張へと変っていく。

2050年までには米中印が世界の核クラブの王座に座っているだろう。しかし、その独占性は核拡散によって希薄になっているに違いない。北朝鮮は事実上の核兵器国家となった。トランプ政権の登場後、アメリカとイランの核合意は振り出しに戻った。サウジアラビアとトルコも核保有に関心を抱いている。中国は核装備可能な戦域弾道ミサイルDF ─を配備するなど核戦力の近代化を進めている。ロシアは中距離核戦力(INF)全廃条約に違反して中距離巡航ミサイルを配備している(ロシアが2019年3月、同条約への参加を停止し、8月に失効)。

核兵器廃絶への期待の中で起こった「核の忘却」から「核の復権」へと再び、世界は動き始めている。「核兵器は実際に使用することを考えなければ抑止力として有効でない」という考え方が再浮上しつつある。その中で、日本の核保有の行方が世界の大きな関心となっていくだろう。(『「核の忘却」の終わり 核兵器復権の時代』秋山信将・高橋杉雄編)

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