在日米軍再編はなぜ必要なの?(2) ~日本の事情~

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在日米軍再編はなぜ必要なの?(2) ~日本の事情~

民主党参議院議員・藤末健三

今年の5月、日米両政府は、2プラス2と呼ばれる「安全保障協議委員会」において、在日米軍再編に関する最終報告を決めました。

 「2プラス2」というと「イコール4」といいたくなりますが、これは、日本が外務大臣と防衛庁長官の2人、アメリカも国務長官と国防長官の2人が参加することから、2プラス2と呼ばれています。この最終報告書が実施されれば、わが国は、東アジアにおける安全保障上の抑止力の維持・強化できる上、沖縄などの負担軽減(海兵隊8000人及びその家族9000人がグアムへ。1500ヘクタールの基地が返還)も実現できると言われています。
 
5W1Hが見えない最終報告書

 最終報告には、「米ワシントン州の陸軍第一軍団司令部を神奈川県の米軍キャンプ座間に改編・移転させる」とあります。司令部が来るということは、在日米軍が日本の施設を利用できる出動範囲を日米安保条約上「フィリピン以北の台湾や韓国を含む日本周辺」としている極東条項を越える可能性があるとの指摘もあります。

また、わが国は、座間へ陸自中央即応集団司令部を新設し、横田基地に空自航空総隊司令部を移転し、自衛隊と在日米軍の司令部機能の統合を目指します。これを米軍と自衛隊の実質的な「融合」と危惧する声もあります。

 この最終報告書の問題点は、5W1Hが明確でないという部分です。いつ、だれが、どこで、なぜ、なにをどのようにするかを明確にしていないのです。これでは基地がある都市の人たちが納得できないのも無理はありません。国会でも最終報告書についての質疑が行われましたが、最終報告書に書かれた「新たな日米関係」の下で、日本はどんな役割をどこまで担うのかが、見えてきていません。

 私の杞憂で終わればいいのですが、今後、この最終報告書を理由に、防衛庁の「省」昇格、自衛隊の海外派遣の恒久化法(現在、臨時措置法でイラク派遣には対応)などの動きが出てくると思われます。まず既成事実を作り、それから法改正を後付けで行うということが起こる危険性があるような気がします。

 最終報告にあるように、安全保障における日米関係が「新たな段階に入る」ことは事実だと考えますが、ほとんど議論もなく「自衛隊が米軍の世界戦略の再編」に巻き込まれていくことだけは避けなければなりません。

≪最終報告 骨子≫
 1.普天間飛行場を沖縄県名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に移設
 2.在沖縄海兵隊を司令部中心に八千人削減し、大半をグアムへ移転。移転費
   (総額百二億七千万ドル)のうち六十億九千万ドルを日本側が負担
 3.沖縄県の牧港補給地区、キャンプ瑞慶覧などを全部または一部返還。嘉手納
   飛行場の戦闘機訓練を国内六カ所に分散移転
 4.キャンプ座間(神奈川県)に米陸軍司令部を移転し、陸自中央即応集団司令部
   を併置。横田基地(東京都)に空自航空総隊司令部を移転
 5.厚木基地(神奈川県)の空母艦載機を岩国基地(山口県)に移駐

(産経新聞5月2日より)

経費は一体いくらかかるの?

 特に、『R25』で話題になったグアム移転などの経費負担をめぐっては、その金額がよくわからない状況です。公式にはグアム移転経費102億7000万ドルのうち日本は60億9000万ドル(59%)、米国側は残る41億8000万ドル(41%)を負担するという話になっているようですが、リチャード・ローレス米国防副次官は、日本の負担を260億ドル(約3兆円)と発言しました。ある日本の高官は2兆円と言いますし、なにが事実か分かりません。

 とにかく、まず政府がやるべきことは、われわれ納税者と基地の近隣の住民に説明責任を果たすことですね。ろくな議論もないまま、このままズルズルと既成事実が作られていくのは、わが国にとってもいいことだと思えません。わが国は、世界経済の1割を担う大国です。そして、世界経済の3割を担う超大国アメリカと日本の連携の行方が、国際社会に大きな影響を与えることを忘れてならないと思います。

藤末健三(ふじすえ・けんぞう)
早稲田大学環境総合研究センター客員教授。清華大学(北京)客員教授。1964年生まれ。86年東京工業大学を卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省、環境基本法案の検討や産業競争力会議の事務局を担当する。94年にはマサチューセッツ工科大、ハーバード大から修士号取得。99年に霞ヶ関を飛び出し、東京大学講師に。東京大学助教授を経て現職。学術博士。プロボクサーライセンスをもつ2女1男の父。

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