下世話すぎる切実、「職業別アタックシリーズ」
『結婚潮流』という雑誌を知っているだろうか?
おそらくほとんど記憶されていないだろうけれど、この雑誌は1980年代前半に一瞬大輪の花を咲かせた。1983年3月の創刊号はすぐに完売、7月号の時点で公称8万部まで急成長して、
「いまや、男は『アルバイトニュース』、女は『結婚潮流』などとささやかれ始めている」
という記事まで登場するほど話題になったのだ。
売りは、24歳の女性編集長をはじめとする若い女性編集者陣。その新奇な視点は結婚をめぐるさまざまな議論を喚起することになった。実におもしろい。どんな雑誌だったのか、のぞいてみることにしよう。
あ、その前に、遅ればせながら本連載の紹介をさせていただきますね。この連載は、婚活ブームに便乗して、結婚って結局のところなんなんだろうっていう大問題を、これまで日本人が結婚をどうとらえてきたのか、その変遷を参考にしながらつらつら考えてみようという企画でございます。
『結婚潮流』は、そんな企画趣旨にピッタリな雑誌だ。ということで、さっそく探してみたのだけれど、それだけ売れた雑誌にしては意外や意外、図書館にも古書店にもあまり残っていない。結局、世田谷区は八幡山の大宅壮一文庫で閲覧させていただいたわけだが、これまた意外、開いてみるとカラーページも多いなかなかちゃんとしたつくり。20代編集者たちのミニコミ誌というような勝手なイメージとは随分違う。
内容のほうも負けてはいない。なんといっても見どころは「100人の釣書」。男性100人の釣書が誌面にぎっしりと並んで、これではまるで誌上お見合いじゃないか。自衛隊さんまでブームに乗って広報誌(『MAMORU』という雑誌です)に自衛隊員の釣書を掲載するいまのご時世から見ても、毎月100人は圧巻と言うほかない(もっとも自衛隊さんのほうは名前も写真もさらしていて、こちらもすごいはすごいんだけど)。
『結婚潮流』のもう一つの見どころは「職業別アタックシリーズ」という下世話な連載。その下世話さは、毎回の「◯◯と結婚する方法」というタイトルで推して知るべし。医者、ボンボン(御曹司)、弁護士といったあたりから始まって、数年後にはネタが尽きてきたのか、学校の先生、電力マンといった感じへ移っていく。
さて、こんな連載が話題を呼べば、こぞって読むのは女ばかりじゃない。むしろ男こそ、どう見られているのか気になってたまらないのだ。官僚特集の回なんて霞が関界隈のあっちこっちで回し読みされていたというから、笑ってしまう。
それにしても、こんな雑誌ほかに思い当たらない。考えてみれば、結婚雑誌というのは普通、『ゼクシィ』もそうだけど、結婚予定のカップルを想定読者にするものだ。