しかし、オリジナルを入手するのはかなわないにせよ、何とか自分だけの『醗酵人間』を所有したいという想いは、どうしてもとどめる事ができなかった。
そこで一念発起、ネットを通じて、製本の手法を突貫工事で猛勉強。製本用の和のりや刷毛まで入手し、万全の態勢で『醗酵人間』のコピーをもとにして復活に取り組んだ。できればその血と汗と涙の記録を縷々と綴りたいところだが、恐らくほとんどの方には付き合いきれない話だと思うので、苦労は画像から偲んで下さい。
とにかく一週間、ほとんど徹夜で取り組んだ「自分以外は誰も誉めてくれず、むしろ奇異の目で見られること必至」の涙ぐましい勤労の末、遂に『オレだけの醗酵人間』が完成したのであった。たとえオリジナルの『醗酵人間』が入手できたとしても、筆者にとって(だけ)は『オレだけの醗酵人間』の方が、遙かに熱い思い入れと価値があるのである。
ヤフオクでの落札価格は40万円以上
その後、ヤフーオークションに2度も『醗酵人間』が出品されたことがある。そうは言いながらも果敢に勝負を挑んだのだが、どちらも最終落札額が軽く40万円を突破。『醗酵人間』オリジナルは、「こけつかきつきつ」と叫びながら筆者の手をすりぬけていってしまい、オリジナル入手の夢は、いまだに遠くかなわぬものであり続けている。
ところが、マニア垂涎、奇書界の皇帝『醗酵人間』が、なんとこの2月に復刻されたのである(戎光祥出版『ミステリー珍本全集』第3巻)。
それだけではない。同じ作者の幻のスリラー『台風圏の男』、そして違う筆名だが『醗酵人間』と並ぶ幻の怪作SFスリラー『改造人間』、さらに単行本未収録短編4 編をも併収した超豪華版だ。これらをオリジナルで入手しようとすれば、数十年の歳月が掛かり、100万円近い出費になることは必至である。
こんな異様な(しかもバカバカしい)内容の、稀珍「怪」 SFが、平成の現代に復刻されるのは、正に空前絶後といえるのではないか。掛け値なしに、ここ10年の出版界最大の(珍)事件である。復刻を手掛けられた戎光祥出版の大英断に心からの感謝の念を捧げると共に、一珍本ファンとして、一人でも多くの方が、「何でもあり」の異様な熱気をはらんだ昭和30年代を体感できる、珍本中の珍本を手にとって下さることを熱望している。
読書好きの皆さん、一家に一冊、いや一人一冊ですよ。(←井上日召かよ!)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら