「農大和牛」はあの近大マグロを超えられるか 黒毛と赤毛のハイブリッド和牛が試す挑戦
新たな「和牛」の境地が開かれるのか――。
和牛と言えば “高級品”の代表格とも言える存在だ。その高級品が今、東京農業大学によって、新たなステージを迎えようとしている。東京農大が黒毛和種と褐毛(赤毛)和種のいいとこ取りをした「ハイブリッド和牛」を作り出したからだ。
世界初となるハイブリッド和牛を開発するにあたり、3つのことが試みられた。
まず1つ目が、黒毛と赤毛の和牛(和種)を両親に持つことである。ハイブリッド和牛は、黒毛の卵子と赤毛の精子の対外受精卵を、ホルスタイン(乳牛)のおなかを借りて誕生させた。母牛に黒毛を選んだのは、肉質の特性は母牛からの影響を強く受けるため、日本人が好んで食べる霜降り肉に近くなるのだ。
黒毛の霜降り、赤毛の赤身というハイブリッド
和牛に限らず食用になる牛の種類は多いが、赤身の間にきれいなサシが入った霜降り肉に育つのは黒毛和種だけ。赤毛は同じ和牛の仲間でありながら、黒毛と同じ育て方をしても赤身の間に脂肪は入り込まず、脂肪が付くのは赤身の周りだけだという。
一方、赤毛はうまい赤身にその特徴がある。さらに重要な特性としては、より粗放な自然環境の中でも、牧草を効率的に消化し成長できる。黒毛と赤毛のハイブリッドによって、適度にサシが入り、かつ赤身もうまい肉の生産を目指したというわけだ。
2つ目が、育て方や飼料の違いが肉の味にどう変化をもたらすのか、ということ。今回のハイブリッド和牛は、双子となるように人工授精で移植された。双子を両極端な育て方をすることでその違いを探ったのである。
双子のうち1頭は、黒毛で霜降り肉を作るための伝統的な手法にのっとって穀物飼育(グレインフェッド)で肥育された。トウモロコシや小麦など良質な輸入配合飼料を中心としたエサで、暗くした畜舎で運動をさせず、ストレスも与えないよう、まさに乳母日傘(おんばひがさ)で育てられた。
もう1頭は牧草飼育(グラスフェッド)と呼ばれ、東京農大が所有する富士の裾野にある広大な農場で、青々とした牧草を主なエサとし、運動もめいっぱいさせながら、のびのびと育てられた。ここで父牛の特性が生きてくる。
そして3つ目が、ホルスタイン(乳牛)のおなかを借りたことだ。ホルスタインから牛乳を搾るには、経産牛でなければならない。このため年1回は人工授精を行い、子牛を生ませる必要がある。しかし、酪農家にとっては飼養できる頭数に限りがあるため、生まれた子牛は食肉として売却するが、ホルスタインの食肉としての価格は、1頭当たり1万~2万円程度にしかならない。対して黒毛の子牛なら1頭20万円という値もつくという。
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