医学部の疲弊が映す日本の医療制度の根本弱点 社会の変化に対応できないのにお上頼みが続く

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わが国の高齢化は急速です。国立社会保障・人口問題研究所によれば、今後、わが国では死亡数が激増し、ピークを迎える2039年には年間に165万人が亡くなります。

問題は、その中身です。約7割は75歳以上の死亡で、彼らは大学病院が得意とする外科手術や抗がん剤治療の対象にはなりません。体力がないため、副作用に耐えきれないからです。彼らが望むのは、自宅で家族とともに養生することです。

医療の中身は高度医療からプライマリケア(身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療(日本プライマリ・ケア連合会))、慢性期医療、リハビリに、医療の場は病院から自宅に移ります。大学病院を中心とした従来型の医療モデルでは対応できません。

大学病院が生き残るにはプライマリケア専門に代わるなど、大胆な改革が必要ですが、医学教育は文科省と厚労省が規制しており、簡単には変われません。

グローバル化も大きな影響を与えます。医学教育は世界各地でグローバル化が進んでいます。変化を主導するのは東欧の医学校です。文化レベルが高いのに、物価が安いため、東欧は医学教育を外貨獲得の手段として、積極的に後押ししています。東欧の医学部を卒業し、大学が実施する試験に合格すれば、EU共通の医師免許が取得できます。卒業生は東欧に留まることなく、ドイツや英国など雇用条件が良い国で働きます。すでに日本からも多くの学生が入学しています。日本人学生の中には、日本で就職を希望している人もいます。

日本の医学教育は「鎖国」状態

このような医学教育の水平分業は、効率的で合理的です。すでに中国も外国人学生を受け入れています。まだ授業は中国語ですが、日本に出先機関があり、対策講座や説明会を開催しています。これからの中国での医療ニーズの増大を考えれば、中国語で医学を学ぶことの意義はきわめて大きいでしょう。

『ヤバい医学部 なぜ最強学部であり続けるのか』(日本評論社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

一方、日本の医学教育は「鎖国」しています。文科省や厚労省が規制しており、その規制のおかげでゾンビ医学部が生き残っています。通常、医学部に限らず、大学は優秀な学生を獲得するために、鎬を削ります。ところが、東京医科大学など一部の大学では、学生の優秀さより、縁故や性別を優先していました。こんな状況でやっていられたのは、わが国の医学教育が規制で守られていたからです。ただ、それも限界です。

私は日本の医学教育や医療システムは、早晩、崩壊すると考えています。国家が規制しているので、柔軟に変化することはできません。「ハードランディング」するしかないでしょう。これから、医学部を目指す若者は、このような変革期を生き延びなければなりません。その際、大切なことは患者中心の視点をもって、試行錯誤を繰り返すことです。誰も正解がわからない状況では、とにかくやってみるしかありません。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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