医学部の疲弊が映す日本の医療制度の根本弱点 社会の変化に対応できないのにお上頼みが続く
医学部が社会の関心を集めています。有名進学校の成績優秀者は、こぞって医学部を目指します。2019年の入試では、巣鴨高校の162人を筆頭に8つの高校が100人以上、医学部医学科に合格しました。
私の母校である灘高校は、2019年の入試で東京大学に73人が合格しましたが、理科三類の合格者は20人でした。一方、文系は合計して13人。経済学部に進む文科二類はゼロでした。
灘高校はもともと理系が強い学校ですが、近年はその傾向が更に強まっています。私が生徒だった1980年代半ば、1学年220人のうち、80名程度が文系でしたが、近年は40人くらいまで減っているそうです。代わって増えたのが医学部志望者です。かつて東京大学の文系に進学していた生徒は、いまや他大学の医学部に進んでいることになります。こうして医学には優秀な若者が集まっています。
一方、近年、医学部は不祥事が続出しています。医療事故、男女差別、不正入試、臨床研究不正…、スキャンダルのオンパレードです。どうして、こんなことになってしまったのでしょうか。
拙著『ヤバい医学部 なぜ最強学部であり続けるのか』でも詳しく解説していますが、私は従来型の医学部の在り方が社会の変化に対応できなくなっているためと考えています。不祥事は、その断末魔です。
医学部は現在も厳格な国家体制下に
わが国の医学部の雛形は明治時代に国家主導で形成されました。現在も厳格な国家の管理下にあります。
医学部定員は政府が規制し、定員増や医学部新設は政治案件です。政治とは既得権者の利害調整です。医学部定員も例外ではありません。
政府は「将来的に医師は余る」と主張し、1982年、1997年に医学部定員を減らすことを閣議決定しました。
団塊世代の高齢化を考えれば、医師が余るわけはなく、国民の健康より日本医師会などの業界団体、社会保障費の増大を抑えたい財務省の意向が尊重されました。現在の医師不足は、政府による「人災」という側面があります。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら