井上尚弥が語る「ボクサーの驚くべき減量事情」

時には「命を削る減量方法」さえ辞さない

ナルバエス戦は、最高のマッチメークになったし、そもそも何階級制覇という記録には、それほどの興味はない。記録だけがボクサーの評価ではない。ファンが見ているのはパフォーマンス。記録より記憶。1試合1試合がどれだけ人々の心に刻まれるか、語り継がれる試合にできるか、が重要なのだ。

ライトフライ級のリミット、48.97キロから、52.16キロに3キロほどリミットの上がったスーパーフライ級では力がみなぎっていた。

ただ、このときも「プラス3キロ」に余裕を持ちすぎて、結局最後は、1日だけ同じように絶食した。ただライトフライ級時代と違い、エネルギーが残っている中での絶食だったので、1日くらい飲まず食わずでも何ともなかった。

現在のバンタム級のリミットは、さらに上がって53.52キロ。通常体重も62キロくらいに増えているが、試合が決まるとまず60キロにしてから準備をスタートするので、実質6.5キロ程度。ライトフライ級時代に比べれば天と地ほど楽になった。

1カ月前から本格減量に入り、プラス5キロを維持しておき、1週間前で残り3キロにするのが目安だ。食事量を調整すれば練習によって体重は落ちる。僕は“水抜き”と呼ばれる直前にサウナや風呂などで、汗だけで一気に2、3キロ落とす手法は使っていない。

プロにとって減量は「当たり前のこと」

普段、練習ノートをつけることなどしていない面倒くさがりの僕が、体重についてだけは、毎日メモしている。どの段階で何キロだったかを記録しておくことが、次の減量に向けての指標になるからだ。イギリスのグラスゴーでは通常よりペースを上げ、早めに落として現地入りした。アメリカでの試合で空気が乾燥して汗が出なかった経験があったからだ。10日前に入ったが、その時点で、もう残り1.7キロオーバーだった。

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メディアには、公開スパーなどで必ず「今の体重は?」と質問される。WBSSの準決勝、プエルトリコのエマヌエル・ロドリゲス戦前には「言いたくない」と答えなかった。基本的に体重は公表したくない。減量に苦しんでいる姿を見せたくないわけではなく、相手陣営に1つでも情報を与えたくないのである。苦しいのか? 逆に楽なのか? ボクシングは心理戦でもあるから、そういう小さな情報が勝敗を左右するかもしれないのだ。

プロであるための仕事として練習と減量はセットだ。ボクシングだけに限らず体重制限のあるスポーツで減量は当たり前のこと。当たり前のことを当たり前にやる。それが減量に対するスタンスだが、コンディション作りという意味では、減量はクリアしなければならない大きな壁でもある。

最高の状態でリングに上がるには、減量とリカバリーの成功が非常に重要な役割を占める。試合への準備期間が3カ月あるとすれば、減量に集中するのは最後の2週間だ。そして、この2週間が実にセンシティブなのである。

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