井上尚弥が語る「ボクサーの驚くべき減量事情」 時には「命を削る減量方法」さえ辞さない
減量はボクサーにとって避けて通れない仕事である。ミニマム級からヘビー級まで17階級に分かれているプロボクシングにおいて、試合前日の計量までに規定体重を作れないボクサーはプロを名乗れない。
試合が決まると減量の2文字が頭のどこかにインプットされ、1カ月前を境に本格的な減量期間へと突入する。僕は、その日を大好きな焼き肉の「食い納めの日」に設定。弟の拓真、いとこの浩樹らと、腹いっぱいに肉をほおばり、翌日からはバッタリではないが、“焼肉断ち”に入り前日計量まで節制生活を続けることになる。
僕のバンタム級転向後の早期KO連発を「減量からの解放」と結びつけるボクシングジャーナリズムの論調がある。確かにせっかくの筋肉やトレーニングで積み重ねたものを減量で削り取ってしまっていた時代があった。
試合に向けての調整、準備の99%を減量が占めるという苦しい時代。通常体重60キロからリミットの48.97キロまで落とさねばならなかった2012年10月のプロデビュー戦から、2014年9月のWBC世界ライトフライ級王座の初防衛戦までのライトフライ級時代だ。
時には「命を削る減量方法」さえ辞さない
ボクシングの減量方法には、ジェイミー・マクドネルが行った直前に急激に汗を出して水分を落とす“水抜き”や、計画的に徐々に落としていく減量などさまざまな手法がある。僕のライトフライ級時代の減量方法は、計量前に絶食するという無茶なものだった。2、3日何も食べないのだから、当然、体重は落ちる。だが、リングでベストのパフォーマンスを発揮するには褒められた手法ではない。命を削る減量方法である。
2014年4月。プロ6戦目で初の世界挑戦を迎えたときの減量は、計量2日前でリミットの48.97キロに1.9キロオーバーだった。1カ月前から減量に入ったが、軽い脱水状態が続いていた。
ここから試合前日の計量日までの2日間は、基礎代謝だけに頼り絶食で落とした。何も食べない、何も飲まないのだ。口の渇きは、うがいで我慢する。試合3日前の練習が終わった、その夜から絶食に入る。一晩寝て、朝起きると300、400グラム落ちている。人間は、何もせずとも細胞分裂が行われるため、自然に基礎代謝が起き、汗などで体重が落ちる肉体のメカニズムになっている。
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