井上尚弥が語る「ボクサーの驚くべき減量事情」 時には「命を削る減量方法」さえ辞さない

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その日は、1日、何もしない。実家の自室にこもるのだ。テレビを見たり、ゲームをしたりしながらソファやベッドでぼーっとして時間が過ぎるのを待つ。

大好きな映画でも見れば、少しでも気が紛れ時間が早く過ぎるのでないか、とトライしたこともあるが、脳が活動するための糖分などもいっさい摂取していないため、脳が働かず集中力が出ない。まったく頭にストーリーが入ってこないのだ。かといって何かをする元気もない。入院患者のように1日を過ごした。

すると、その間に基礎代謝が進み、夜に体重計に乗ると600グラムは落ちていた。これで残り1キロである。もう一晩寝て、朝起きると、さらに300グラム減で、あと700グラム……。ゴールが見えてきたが、ここまでくると、基礎代謝による体重の落ち方もスローになってくる。2日目も日中、何もせずに過ごして落ちるのが500グラム程度だ。

それでも寝る前に体重計に乗ると、リミットまで残り200ラムにまで迫っていた。そして、最後の一晩を寝て、朝目を覚ますと最後の200グラムが落ちていた。落ちるとは信じていたが、体重計の目盛りを確認すると、全身の力が抜けるほどの安堵感に包まれた。

だが、丸2日の絶食である。過酷を通り越して地獄だった。計量は、たいてい午後1時くらいに設定されているため、そこまでに50グラムから、100グラムほど落ちることがある。こういうときは、その浮いた分だけの水分や食べ物を口にできる。絶食中も、あまりに苦しいときは、体重計に乗りグラム数を計算しながら「50グラムなら大丈夫」と母にグレープフルーツをむいてもらったこともあった。

「無理な減量」が招いた悪影響

世界初挑戦となったWBC世界ライトフライ級王者、アドリアン・エルナンデス(メキシコ)とのタイトル戦では、試合の途中に足がつった。緊張もあったが、減量によるミネラル不足が原因だったと思う。この試合前にはインフルエンザにもかかり、さらに最終調整が難しかった。限界を超えた減量により抵抗力が落ちてしまっていたことも、インフルエンザのウイルスに抵抗できなかった理由かもしれなかった。

父が大橋秀行会長と話し合って「長いラウンドは持たない。もうここで勝負だ!」と6ラウンドにゴー指令が出た。打ち下ろす右ストレートでキャンバスにはわせたが、足が思うように動いていなかった。負けることはなかっただろうが、ズルズルと試合が長引けばKOシーンをファンにお見せすることはできなかったかもしれない。

世界挑戦の際、ライトフライ級で世界ランキングに入ったという事情もある。だが、今振り返ってみると、最初からフライ級からスタートすればよかったという悔いはある。無理な減量を行う必要はなかった。

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