そして、麻里絵は自嘲気味に続けた。
「ま、姉が結婚したのは25歳のとき。私は今35歳。女の価値が違うってことなんでしょうかね」
結婚の話が進んでいくうちに、「このまま結婚をしていいのか?」という疑問は日に日に膨らみ、結局出した答えが、“婚約破棄”だった。
婚約指輪の代金精算で終わった
都内のカフェで、「結婚をやめたい」と言うと、これまで一度も声を荒らげたことのなかった亮一が、怖い顔をしながら押し殺すような声で言った。
「何を言い出すんだよ!」
周りの客を気にして、大きな声が出せなかったのだろう。
「ここのところちょっと様子がおかしいと思っていたけど、なんで急にそんなことを言うの? もう親にも紹介しちゃったし、そんないい加減な気持ちだったの? 無責任じゃないか」
こう言うと、彼はポケットからスマホを取り出して時間を確認し、財布からお茶代の500円玉と100円玉硬貨を出すとテーブルの上に置いて言った。
「お互いに冷静になって、ゆっくり話そう。もう今日は行かないといけないから」
その日は、18時から亮一の前の職場の仲間たちとの飲み会が入っていた。出なきゃいけない時間ギリギリに結婚を取りやめる話を切り出したのは、この場でもめたくない麻里絵の計算だった。
そこからはもう会うことはせず、電話とLINEでの話し合いになった。亮一は、「会って話そう」と何度も言ってきたが、会いに行く気持ちにはなれなかった。また、「結婚をやめたくなった理由は何?」と聞かれると、「あなたとは生きていく価値観が違う」としか答えられなかった。
浮気をした、暴力を振るった、暴言を吐いたというのであれば相手に非がある。しかし、お金をキッチリ折半にすることは、決して悪いことでなない。麻里絵が、そういう男性を好きになれなかったという、感情の問題だ。
何を言われても、「結婚はやめたい」と返していた麻里絵の元に、亮一から最後のLINEが来た。
「わかりました。結婚できないと言っている女性と、無理に結婚しようとは思わないので、白紙に戻しましょう。最後に、お金の精算をさせてください。結婚指輪はお互いに買ったことになっているけれど、婚約指輪に関しては、そちらが買い戻すという形を取っていただこうと思います。指輪の代金を振り込んでください」
こうして、ダイヤの指輪の代金を振り込み、婚約は解消された。
麻里絵は、私に聞いてきた。
「私みたいな考え方だと、これから結婚は難しいですか?」
私は、麻里絵に言った。
「そうですね。今の時代、“お金は男性が払うもの”と思っていたら、結婚は難しい。元婚約者の方は、確かにお金にキッチリしすぎているところがあったけれど、お姉様のご主人のような男性のほうが珍しい。ほとんどいないと思っていたほうがいいですよ。それにしても結婚指輪の16万円も、随分高かったですね」
「あ、それは、彼にも言われました。『周りに聞いたら、結婚指輪なんて3万円から5万円くらいだと言っていたよ』って」
この面談を終え、その後私の相談所で婚活を始めた麻里絵だったが、3カ月後には退会していった。結局、理想の相手は見つけられなかった。
金払いのいい男性は、格好いいし魅力的に映るが、そこに執着していると、お相手は見つからない。また、麻里絵のように「お金を払ってもらう」イコール「男性から大切にされている」という考え方ももはや時代錯誤になりつつある。
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