――従来の「忠臣蔵」のイメージを覆すようなコミカルな映画でしたが、そのあたりはどうご覧になったのでしょうか。
お金が媒介することによって、コミカルに描ける部分があったということかもしれません。最初からコメディーにするという話だったので、ある意味、覚悟はしていました(笑)。とにかく中村監督には、泣き笑いできるような映画にしてくださいという要望を出したんですが、そういうふうに仕上がっていると思います。
――映画を見てから、そして改めてこの本を読み返してみると、頭に登場人物たちのイメージが浮かび上がってきます。いい意味で映画と新書が補完し合っているなと思ったのですが。
そう思います。中村監督は本当に本を読み込んでくれて、それを面白く作っていただいたなと思っています。
金銭面を正面から取り上げる人はいなかった
――この本で取り上げられている、大石内蔵助が遺した史料「預置候金銀請払帳」というのは、研究者は皆知っている史料であったにもかかわらず、これまで真っ正面から取り上げた人がいなかったとのことですが、それはなぜなのでしょうか。
やはり「忠臣蔵」というのは忠義の物語なので、どういうふうに苦労したかとか、お互いの対立を乗り越えてついに討ち入った、といった話がどうしても中心になります。だから、その背後にあるお金に関してはそうは出てこなかったわけです。
もちろんお金の苦労もあるわけなんだけど、それらは添え物的に扱われていました。ここでいくら使ったとか。そういう形でちょっと使われる程度。あえて正面から取り上げようとは思わなかったのでしょう。わたしが(「預置候金銀請払帳」を所蔵している)箱根神社に調査に行ったときは、「(これまでに史料は)誰も見に来なかったですよ」と、言っていました。映像を映したいと、テレビの撮影スタッフが時々来る程度だったようです。
――「預置候金銀請払帳」を見て、これはいけるぞという確信があったのでしょうか。
だんだん出てきました。まず第一に、あの史料だけが箱根神社に孤立して残っていたのです。もし取り上げるにしても、それがはたして本物なのか、信用していいものなのか、というところから検討しなきゃいけない。ただいろいろと探っていくと、赤穂城を引き渡した後に作った帳簿の中に、同じ題名の史料があることがわかりました。
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