19世紀「機械は思考できるか」問うた1人の女性

コンピュータは文系と理系の交差点で誕生

「コンピュータの女神エイダ」とはどんな人物なのでしょうか(写真:metamorworks/iStock)
「いずれ仕事がなくなってしまうのか?」。いま私たちがAIに感じているのと同じ恐怖を、機械に対して抱いた人たちもいた。産業革命が起きた時代、英国の詩人バイロン卿もその1人だったが、その娘エイダ・ラブレスこそ、今日「コンピュータの母」といわれる伝説の女性である。”文系“である詩人の父と、数学好きな”理系“の母のもとに生まれた「コンピュータの女神エイダ」とはどんな人物なのだろう? ウォルター・アイザックソン著『イノベーターズⅠ』『イノベーターズⅡ』を基に再構成してお届けする。

10代で駆け落ちした数学少女

エイダの詩才と不柔順な性格は父バイロン譲りだが、機械に対する愛は違う。それどころか、父親は機械を敵視する「ラッダイト」だった。母アナベラは、娘を父親のようにしてはならないと考え、厳しい数学教育を施した。まるで、数学が詩的想像力に対する解毒剤になるとでもいうかのように。だが、母の苦労にもかかわらず、父の情熱を受け継いだエイダは、年頃になると家庭教師の1人と恋に落ち、駆け落ちまで図っている。

家に連れ戻されたエイダは、数学に没頭すれば父バイロン譲りの奔放な性質を抑えこめるという母親の信念を受け入れた。微分積分の基本概念はほとんど理解したし、芸術的な感性から、方程式が描きだす曲線や軌跡の変化を視覚化することを好んだ。方程式の根本にある概念の議論に熱中したのだ。

「数学の美を愛でる」というエイダの能力は、理解できる人の少ない資質だった。彼女は数学を、心引かれる言語、宇宙の調和を映し出す言葉と捉え、時には詩的でさえあると感じていた。父親から引き継いだ詩的な感性で、壮麗な自然界の一面を写しとる筆致を方程式の中に見てとっていた。「ぶどう酒色の海」や「夜のように美をまとって歩く」女性を思い描くのと同じように、だ。

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