日本企業が知らない「会社を魅力的にする」方法 エンプロイヤーブランディングとは何か

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次のステップは、こうした「ストーリー」を的確に、求職者に届けることである。これは、求職求人フェアから大学のキャンパスでの採用活動やオンライン広告に至るまで、あらゆる可能性のあるチャネルを通じて行う。これまでどおりの採用チャネルも重要ではあるが、ソーシャルメディアやメディアをいかに使うかがブランディングを左右する。

ソーシャルメディアの中でも重要な役割を果たすのが、動画である。例えば、会社のイベントや職場の雰囲気、現在働いている社員へのインタビューなどを映した動画などだ。こうした動画は職場の雰囲気を伝え、働いている人を映し出すなどして、その企業の最もリアルな姿を伝えるすべとなる。

すでにオーストリアには、ワチャドゥ(Watchado)など、社員へのインタビューを企画したり、職務内容や職場生活についての詳細を紹介するプラットフォームを立ち上げる支援をするベンチャー企業が登場している。また、エンプロイヤーブランディングの教育や、企業及び人事管理職がエンプロイヤーブランディングの専門家となるための認定を行う特殊な民間機関もある。

学生は何を基準に企業を選んでいるのか

日本における労働力不足のような急激な変化は、日本企業の採用へも影響を及ぼす。これまで企業の人事部は新卒の若者を大学から直接採用してきたが、これは、大学の就職説明会、求職求人フェア、そして時間のかかる就職試験プロセスといったものだった。もちろん、こうした採用方法も意味があるもので、これからも有効な手段であり続けるだろう。

しかし、私が上智大学で教えている学生たちは、卒業時点で1人平均5つのオファーをもらっている。そして、彼らはその中から自分のニーズに最も合致していると思われる企業を選ぶ。彼らの判断基準は往々にして、そのときの感情によるところが大きい。この点を見逃してはいけない。

こうした中、エンプロイヤーブランディングは日本企業にとっても非常に有用な概念となり、求職者が適切な選択をするための助けとなる可能性がある。強力なエンプロイヤー・ブランドをもつ企業は、長期的に見て従業員を引きつけることに関して優位に立つことができる。

今のような人材争奪戦の早い段階でエンプロイヤーブランディング戦略を打ち立てることによって、その後何年もの間、経費を大幅に節約することができる。そして、今後は日本でもワークライフ・バランス、企業による家族向け説明会、フリンジ・ベネフィット(付加的給付)、キャリアの国際化といった話題がさらに重要な役割を果たすようになっていくだろう。

こうした話題の多くは、日本の人材開発担当者が聞き慣れないものかもしれない。しかし、人材獲得競争が激化する中、これからはますます「売り手市場」になることは間違いなく、彼らは福利厚生が充実していて、個人の興味を支援してくれるような企業を選んでいくようになるだろう。エンプロイヤーブランディングは、日本企業にとってもはや無視することのできない動きなのである。

パリッサ・ハギリアン 上智大学教授(国際教養学部)

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Parissa Haghirian

オーストリア・グラーツ生まれ。ウィーン大学日本学部卒業。ウィーン経済大学国際ビジネス学部で博士号取得。2004年に来日し、九州産業大学で国際ビジネスを教え始める。2006年、上智大学に准教授として着任。現在は、上智大学国際教養学部教授(国際経営・経済学コース)として、日本の経営学、クロスカルチャー、経営戦略などをテーマに研究・教育活動を続けている。

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