93歳の母の最期を娘が「美しい」と感じた理由

長い介護の先に見えてきた意外なこと

「妹は母に似て几帳面なんです。しっかり者の2人に挟まれると、率直に言って、私はとても息苦しく感じることもありました」(長坂)

だが、鍼灸師の妹は時折訪ねてきて、はりで母の免疫力を高めたり、体調の変化を機敏に察し、病気を早期に発見してくれたりした。

とくに最後の1カ月は、月曜から木曜は長坂、金曜から日曜は妹と分担して、母親に寄り添った。長坂の妹の了解を得て、妹から長坂へのLINEを一部紹介する。2019年2月頃のものだ。

姉と妹のLINEのやりとり(写真:筆者撮影)

「外の冷蔵庫(冬のベランダのこと)の白菜と人参のだし煮をお昼に使ったけど、よかった? かれこれ1週間も経つし、だいぶ気温も上がってるからヤバイと思って————」

生活感あふれる内容だ。同時に、長坂の言葉を借りれば、「母を仲立ちにして、姉妹の絆を深めることができた濃密な時間」でもあった。

誰もが、人生の最後は家族に迷惑をかけたくないと考える。しかし、老親の急逝によって、家族にグリーフケア(身近な人と死別して悲嘆にくれる人が、立ち直れるように支援すること)が必要になることもある。逆に長坂のように、濃密な介護が姉妹の絆を深めることもある。ピンチはチャンスにもなりうる。

長女が抱えていた看取りについての不安

長坂の母親が、末期の乳がんを告知されたのが2018年6月。2019年2月には、往診医から「桜を見るのは難しい」と言われて、事態は急展開する。

母親は85歳まで自転車に乗って、買い出しに行くほど元気だった。仕事一筋の長坂のために食事をせっせと作りながらも、合唱や俳句、写真撮影などにも出かけ、日々の生活も楽しんでいた。

何事も1人でてきぱきと片付け、寝たきりになる前に遺言状を書き、葬儀社も決めていたほど用意周到な女性。だが、自尊心ゆえに病院も施設も嫌がる母親を前に、長坂は自宅で看取るしかないと決意する。

「ですが、私と違ってしっかり者で几帳面な母が、人生の最後に私にきちんと甘えてくれるんだろうか。もしも甘えてくれるとしても、私が母をしっかりと受け止められるんだろうかと、もう不安ばかりでしたね」

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