父の余命告知後は「怖くてたまらなかった」
2019年春、父親の96歳の誕生日を姉弟2人で祝った。和泉陽子は東京から実家のある名古屋に戻り、3人で囲む夕食だった。一見穏やかな家族だんらんだが、姉弟の心中はまるっきり逆だった。
「かかりつけの在宅医から父の食欲がないと聞き、市民病院でその日精密検査を受けてもらったんです。すると進行性のすい臓がんで、いつ、何があってもおかしくない状況だと、担当医から突然言われました」(陽子)
当日の父親は、果物や和菓子を少し口にする程度で、食欲はめっきり落ちていた。だが、痛みや吐き気など、がんに起因する自覚症状は一切なし。手術はせず本人には病名も伝えない、と姉弟で即決した直後の夕食だった。
「父は脚の脛(すね)がとても細くなっていました。治療も投薬も一切しないとなると、このまま木が枯れていくように、全身がやせ細って最期を迎えるのかと思うと、私はもう怖くて、怖くて……」
元国際線の客室乗務員だった陽子は、色白な細面のつぶらな瞳で当時の心境を振り返る。
約10年前に80歳の母を、病院で看取ってはいた。だが、そのときは元獣医の父親がそばにいてくれた。今度は姉弟だけでやりとげなくてはいけない。
「本当に自分たちだけで、できるんだろうか。ショックのあまり、自分が自分でいられなくなるんじゃないか……。もう考え出したらキリがないんですよね。私たちの気持ちを支えてくれる第三者が、どうしても必要でした」(陽子)
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