弟を看取った姉が「死は怖くない」と感じた理由 「死=冷たくて怖いもの」が変わるまでの軌跡

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阿部さんが弟を看取るまでの経緯とはー―(写真:筆者撮影)
人はいつか老いて病んで死ぬ。その当たり前のことを私たちは家庭の日常から切り離し、親の老いによる病気や死を、病院に長い間任せきりにしてきた。結果、いつの間にか死は「冷たくて怖いもの」になり、親が死ぬと受け止め方がわからず、喪失感に長く苦しむ人もいる。
阿部みち子(仮名、75歳)は2020年2月、独身の弟・孝典(仮名、享年72歳)が終末期に入ったという連絡を、入院先から受けた。初めて喪主になる不安から、阿部は臨終での経験が豊富な看取り士に協力を依頼した。
看取り士とは、本人や家族の死への不安や恐怖をやわらげ、思い出を共有し、抱きしめて看取ることをうながす。一人暮らしでも、人の温もりの中で旅立つことを支える仕事の意義を、阿部が実感した軌跡をたどる。

「葬儀社も知らない私1人では何もできない」

「母親が約10年前に亡くなってから、弟とはほぼ付き合いはありませんでした。頑固な性格で、トラブルもいろいろありましたし……。でも、最期ぐらいは私ができる範囲でやってあげたい、そう思ったんです」

阿部さん5、6歳の頃の、家族写真。前列の左が阿部さん、後列左が弟さん。 前列の右が妹さん、後列右がお母さん(写真提供:阿部さん)

阿部は率直に明かした。弟は独身で、母親が亡くなってからも実家で一人暮らし。その後入居した老人施設で脳梗塞になり、入院していた。

阿部は、看取り士資格を持つ介護福祉士の友人のことを思い出した。友人の話を聞き、柴田久美子(一般社団法人日本看取り士会会長)の著書を読み、彼女は同法人の新宿研修所に連絡を入れた。

「葬儀社さえ知らない私1人では、今後何もできないので、誰かプロの方に手伝っていただきたかったんです。看取り士さんには看護師や介護福祉士の方が多く、相談もいろいろできるでしょうし、心強いと思いました」

新宿研修所代表の中屋敷妙子(59歳)(「88歳祖父の死に『おめでとう』と言う孫の真意」)も本業は介護福祉士で、看取り士資格を持つ。

以降、中屋敷は阿部のよき相談相手になる。葬儀形態の選択や、実家の遺品整理や売却、在宅介護に切り替える場合の受け入れ態勢づくりなどを、自身の経験に基づき、阿部と同じ目線に立って助言できたからだ。

阿部は、中屋敷から有償の看取り士とともに、入院中の弟に複数人で寄り添う無償のエンゼルチームのことを聞き、両方の派遣を依頼した。

「余命告知を受けたご本人のそばで、1回につき3時間ご本人に触れたり、お声がけなどをさせていただいたりするボランティアのチームです。看取り士資格がなくても登録できます。病院でも自宅でも、ご家族が付きっきりというわけにはいきませんから、代わりに寄り添わせていただきます」(中屋敷)

次ページ構成されたエンゼルチームは4人
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