弟を看取った姉が「死は怖くない」と感じた理由 「死=冷たくて怖いもの」が変わるまでの軌跡

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看護師の辰巳親子(ちかこ、52歳)が、孝典に初めて寄り添ったのは今年7月。コロナ禍での面会謝絶を経て、孝典に2度目の余命告知が行われていたからだ。病院長が看取り士さんを呼んであげてもいいよと、阿部に伝えてきた。エンゼルチームの面々が再び、合計6日間交代で通った。

「中屋敷さんから事前に、孝典さんが問いかけには瞬きで返してくださるとうかがっていました。ですから、『痰(たん)の吸引を看護師さんにお願いしましょうか? 必要なら私がお呼びしますから、瞬きしていただけますか?』などと質問をして、実際に吸引もしていただきました」

その後、孝典は呼吸も落ちつき、穏やかに過ごしていたという。

辰巳は勤務先の老人ホームでも、もう話せない入居者が、自分が声がけをすると、表情がパッと明るくなったりする経験があったという。

そこは看護師が常駐していて、終末期が近づくと家族とも話し合い、そのままホームで看取る選択もできた。家族に声がけや、手を握る程度に触れてもらえる看取りの実現に力を注いでいた。

「それでも、柴田会長が実践されている『抱きしめて看取る』という発想は、いっさいありませんでした。その分、インパクトは大きかったですね」

本人や家族にとっていい看取りとは何か。生真面目な探究心が、辰巳に看取り士養成講座で学んでみたいという気持ちをふくらませた。

辰巳の次の訪問は7月中旬。孝典危篤の連絡を受けた当日午後、病室に駆けつけると虫の息だった。すでに阿部夫妻がいた。呼吸が止まって医師の死亡確認が終わり、辰巳が看取り士として初めて向き合う番だった。

抱きしめて看取って感じた温かい気持ち

病院側は看取りのために2時間ほど、孝典の身繕いの措置を待っていてくれた。辰巳は中屋敷と交代でベッドに上がり、看取りの作法を始めた。

自身の右太ももに彼の頭をのせ、その肩や胸を手でさすりながら、相手の体の温もりを共有し、顔を近づけて深い呼吸を繰り返す。

「阿部さんご夫妻は、遠巻きに見ていらっしゃるご様子でした。『看取りの作法をされますか?』とお尋ねしましたが、私たちはできませんと言われたので、改めて『体に少し触れられますか?』とお尋ねすると、お姉様だけが脚に少し触れていただきました」(辰巳)

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