弟を看取った姉が「死は怖くない」と感じた理由

「死=冷たくて怖いもの」が変わるまでの軌跡

阿部の夫はそれを見守りながら、「義弟はワインが好きだった」とか、「でも、頑固な人だったな」と、とつとつとつぶやいていた。

辰巳は孝典の顔が作法の間に、当初より穏やかにゆるんだように見えて驚いたという。通常は死後硬直が始まり、筋肉も硬くなり始めるからだ。

「(抱きしめて看取ってみて)私自身もとても温かい気持ちになれて、これが養成講座で教わった、(亡くなられた方との)エネルギーの交流なのかと思いました。お腹が熱くなる人もいるらしいですけど、私はそこまでは感じられませんでしたね。でも、死に目に間に合わなくても大丈夫、という教えの意味は体感できました」

「正直、死ぬのも怖くないなって」

実は、辰巳には約25年前、大好きだった母方の祖母を看取ったときの後悔がある。まだ顔を見せない親族が死に目に間に合うようにと、医師は祖母に人工呼吸器をつけた。当時すでに看護師だった辰巳には、心臓を刺激する薬の投与と同様に、それは「善意」の措置だった。

しかし、家族の側から見ると呼吸器はどこか不自然で、祖母の尊厳を傷つけるものにも感じられ、辰巳には以降、言葉にしづらい違和感がずっと残っていた。その話を口にすると、彼女の両目は今も充血してしまう。

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「ですから心臓が止まったというだけで、こんなに温かい体をご家族に触れてもらうこともなく、霊安室に移したりするのはやっぱりおかしい。改めてそう実感できました」

一方、弟の脚に触れていた阿部も、不思議な温かさを感じていた。看取り士さんたちがとても丁寧に、そして親身になってくださっているのがわかったという。やはり健康で、その仕事にやりがいを感じている方々に看取られたから、弟も幸せに旅立てたんだと思います。身内でもあそこまでできませんよと阿部は言い、こう結んだ。

「看取りの様子を見させていただいて、正直、死ぬのも怖くないなって思いました。私も主人と2人暮らしで、いずれは老々介護で、誰かのお世話にならなきゃいけないわけですしね。それに一人暮らしの方が増えている今、弟のように人の温もりの中で旅立てる活動は大事なことですよ」

(=文中敬称略=)

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