「親を看取る怖さ」に震えた娘が探し出した"道" 心穏やかにその日を迎えるためにできること

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西河はそばにいて、施設では戸惑い気味だった彼との違いを感じたという。

「その姿勢のまま、優しい眼差しでお父様を見つめられて、一言『ありがとう』と言われました。そして私からは何もお伝えしていないのに、心から慈(いつく)しまれるように手でお父様の顔や頭に、静かに触れていらっしゃいました」

弟は父親との時間をしばらく過ごしてから、静かに言った。

「この緊張感のある場に、西河さんがいてくださると落ち着きます」

病院で息を引き取った母親の慌ただしい最期が、彼の念頭にあったのかもしれない。弟が父親を穏やかに看取ったと西河から聞き、陽子もホッとした。自分がばたばたしていた分、西河がその間も父親に静かに寄り添っていてくれていたことで安心できた、と続けた。

「私もいざとなると意外と冷静で、大丈夫でした。父は息を引き取る瞬間を見せないことで、私を気遣ってくれたようにも思えましたし……。でも、弟のようには父を抱きしめられなかった」

今回、彼女は正直にそう明かしてくれた。

「でも、あれほど怖かった父親の最期は、一定の時間を共有し、亡骸(なきがら)の温もりにも触れたおかげで、拍子抜けするほど心穏やかにいられました。尼僧さんの言葉どおり、『姿形があるときは心が苦しく、亡骸になれば悲しい。でも骨に戻れば心は軽くなる』でした」(陽子)

ブーケのように飾られた祭壇と、娘の思い

葬儀会場には通常の白菊や白百合などは皆無。代わりに、陽子の一存で赤や桃色のバラやシャクヤクが、結婚式のブーケのように祭壇を飾った。生前の父親をおしゃれに身繕いした娘からの手向(たむ)けだった。オランダの葬儀では暖色系の花々で盛大に送るという。

通夜では、2014年の父親の誕生日祝いに、姉弟が作ったスライドショーの映像を流した。父親が撮った色鮮やかな作品や、姉弟が父親とそれぞれ写った2ショットなどが挿入されている。

葬儀で流されたスライドの後半(写真:陽子さん提供)

スライド後半、暗く沈んだ空一面に、茜色に染まる鰯(いわし)雲の隊列が浮かぶ1枚には、「お父さんからもらった 『たからもの』はたくさんあるけど」とあり、続く父子の2ショットには、「こうして『なんだかんだ』と言いながら一緒にいるのがうれしい」と書かれていた。

(=文中敬称略=)

荒川 龍 ルポライター

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あらかわ りゅう / Ryu Arakawa

1963年、大阪府生まれ。『PRESIDENT Online』『潮』『AERA』などで執筆中。著書『レンタルお姉さん』(東洋経済新報社)は2007年にNHKドラマ『スロースタート』の原案となった。ほかの著書に『自分を生きる働き方』(学芸出版社刊)『抱きしめて看取る理由』(ワニブックスPLUS新書)などがある。

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