野村総研というシンクタンクの知られざる凄み 野村證券がブランディングに成功したワケ

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クー:日々何億、何十億、何百億というおカネを扱っている人たちの前でいい加減な話をしていたら、すぐにもう2度と来なくていいということになってしまいます。日本だけではなく世界の投資家が相手です。ジョージ・ソロスのような世界的な投資家の前で話すこともあるわけです。そのために、日々、世界や日本の経済状況を分析したり研究したりしています。それにはものすごい緊張感があります。

船橋洋一(ふなばし よういち)/1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など(撮影:今井康一)

ですから、そうした研究の時間が7割で、残りの3割で天下国家の議論をする時間が与えられています。このバランスが私は好きなんです。野村総研を辞めると、天下国家の議論だけになってしまう可能性が高いわけですが、そうすると、このヒリヒリするような緊張感がなくなってしまいます。この緊張感は嫌なんですけれど、なくちゃならないような気がします。

船橋:真剣勝負ですからね。

クー:まさに真剣勝負です。

船橋:いい話を伺えました。やはり、シンクタンクにも真剣勝負という意識があるかどうかが大切ですね。非営利だと、ある意味でそこを甘くしても、言い逃れできるところがありますからね。一方で、少し甘さを残しておくことが遊びというか、妙でもあって、そのへんの按配が難しいところです。

クー:今はそういうアナリストは、野村総研にはいなくなりましたが、以前は自動車のアナリストだとか電機のアナリストなど専門家がいて、業界の皆さんから厚い信頼を得ていました。普通は、情報収集のためにこちらが話を伺う立場ですけど、いろんな会社の社長から、ぜひ話を聞かせろと依頼が殺到していました。

天下国家を語る言論空間

船橋:やはり、天下国家をのびのびと語ることができる言論空間があることがシンクタンクには必要ですね。成果物をどんな形で世に出しているのですか。

クー:野村の顧客向けには毎月マンデー・ミーティング・メモというレポートを出していますが、一般向けには、論文の寄稿とか書籍の出版という方法が主です。『インターナショナルエコノミー』誌への投稿もその中の1つです。あとは、当局者と議論し、政策に反映させるということですね。こちらにアイデアがなければ、当局者の皆さんがわれわれと議論する理由はありません。

船橋:そのとおりですね。

クー:こちらがアイデアを持っていくと、それに対して反応を示してくれます。それを踏まえて提案を改善していく。そのやり取りの中で当局が抱えるさまざまな事情が見えてきますから、それらを踏まえて、例えば野村のお客さんに、「今はこういう状況だと思います」と説明すると喜んでいただける。そういうプロダクトもあります。ですから、情報のブローカーといった側面もあるかもしれません。最近はそればっかりやっています。

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