野村総研というシンクタンクの知られざる凄み 野村證券がブランディングに成功したワケ

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クー:私も、あったと聞いたことがあります。大蔵省です。けれど、私はまったく知りませんでした。大蔵省からの電話を受けた役員は、話を聞くだけ聞いて現場には伝えなかった。知ったのは何年も経ってからです。しかも、電話を受けた本人からではなく、たまたまそのとき、近くで電話を聞いていた別の役員から、そういえば昔こんなことがあった、と教えてくれたのです。

船橋:野村総研は大切にしようというのが、野村の本社にもあったんですかね。

クー:だから、なかなか辞められないんですよ。

多様な背景と知識のある人々が集まるシンクタンク

船橋:総研でG7の国々の連携のプログラムをつくったことがありましたね。

クー:それが、さきほど申し上げたT5、シンクタンク5での話です。

船橋:そうだったんですか。ところが、野村はそこから抜けてしまったものだから、今度は東京財団の竹中平蔵さんがT7を作ろうとして、G7各国のシンクタンクのトップを招いて会合を持ったことがありました。私も参加しました。けれど、今はそういうことができるシンクタンクはなくなりました。

日本のそういうconvening power(主宰力)が落ちてきているのは非常に残念です。われわれは1国だけでなく、世界の中で生きていくしかありませんから、世界に働きかけていかなきゃならない。そのためにはアイデアが必要ですし、それをともに考え、つくるピア(仲間)が要る。

地球環境問題にしても、日本からアイデアを出し、世界とともに練り上げていく力がどんどん弱まっている気がします。まだ石炭火力プラントを世界に輸出しているわけでしょう。

クー:今、非常に低い国債の金利をベースに、環境に対するいろんなことをやるべきだという議論があります。今の金利ならいろんなことができるはずですよね。

船橋:先ほどもご指摘されたように、この低金利を使って、大きなことを構想して実現するという発想がもっともっと必要ですね。このままだとゼロ金利は果てしなく長期化するだろうしね。

クー:はい。すでに30年も続いています。

船橋:そうすると、これからのシンクタンクには何が求められると思われますか。日本だけでなく、アメリカも含め世界のシンクタンクが岐路に立っているとぼくは見ていますが、どうでしょうか。クーさんはアメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアアドバイザーでもあって、アメリカのシンクタンクのこともよくご存じです。

クー:日本にもCSISのようなシンクタンクはあるべきだと思います。例えば、CSISに行くと、今、隣の部屋にキッシンジャーが来ていて、CSISが集めた論客たちとブレインストーミングをやっているんだ、なんてことが日常茶飯です。

政府の中にいたら同じような考えの人しかいないので、知識も知恵も限られますが、シンクタンクなら、さまざまな経験や知識、見識を持った人々を集められます。そして、それを政策に反映させることができます。そこがシンクタンクの強さだと思います。

船橋:クーさん、ご自身でおつくりになったらどうですか。そういうのを。日本で。

クー:私が、ですか。私は、自分の経済理論を早く完成させたいので、今はそっちに全力投球しています。

船橋:それは残念だな。いちばん向いている人なのに……。今日は本当にありがとうございました。

船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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