「赤字国は怠け者で黒字国は勤勉」という大誤解

自由貿易体制の堅持には為替調整が必要だ

野村総合研究所 主席研究員のリチャード・クー氏(左)に、貿易の不均衡を是正するにはどうしたらよいか話を伺った(撮影:尾形文繁)
今年6月から連載を開始した「21世紀のシンクタンク・パワー」は、次回で一区切り。最後のゲストとして、日本屈指のシンクタンクである野村総合研究所に36年間在籍し、現在は主席研究員の職にあるエコノミスト、リチャード・クー氏をお迎えし、今回は対談前編をお届けする。
クー氏は「バランスシート不況」の経済理論の提唱者で、近年は、トランプ大統領の登場で自由貿易体制が不安定化する中、アジア主導の為替調整による自由貿易体制の維持を訴えた「アジアンプラザアコード」で世界的に注目されている。

船橋洋一(以下、船橋):クーさん、今日はありがとうございます。クーさんとは、プラザ合意の舞台裏を描いた『通貨烈烈』を出版した後、一緒に勉強会を開いていた頃からのご縁です。

リチャード・クー(以下、クー):本当にお久しぶりです。もう、10年ぐらい経ちますか。

この連載の一覧はこちら

船橋:いや、もっとです。ですが、クーさんの発表されたものはほとんど読んできました。最近も『インターナショナルエコノミー』の「アジアのプラザ合意」も読みました。アジア諸国の経常黒字とアメリカの経常赤字が続く限り、世界経済は安定しない。「プラザ合意」(1985年、G5蔵相・中央銀行総裁会議が合意した為替レート安定化に向けた協調政策の通称。ドル高でアメリカの貿易赤字が膨らんだ状況下、自由貿易を守るため、各国が協調しドル安を誘導する合意だった)のように大胆に為替をリアレンジメントしないと、安定は保てないという主張でした。

プラザ合意の時代はG5で、西側だけで完結する世界でしたが、今は中国やロシアも世界経済に強い影響力を持っています。その時代に、協調政策を実施することが可能でしょうか。

貿易の不均衡は為替調整で解決できる

クー:そのアイディアを最初に提案したのは10年前です。そのとき、当時人民銀行総裁だった周小川さんに興味を持っていただいて、北京で3時間ほど議論しました。彼は、鄧小平が生きていたら、5分でこの提案に乗ると。

船橋:でも、今は鄧小平がいないし、鄧小平路線を否定するような政権になっていますよね。

次ページなぜ10年前より事態は深刻なのか
政治・経済の人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 新競馬好きエコノミストの市場深読み劇場
  • 本当に強い大学
  • 西村直人の乗り物見聞録
  • 日本野球の今そこにある危機
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
中国を知り尽くす異能の外交<br>官 垂秀夫 新中国大使

中国に幅広い人脈を持ち、アグレッシブな仕事ぶりで知られてきた垂秀夫・在中国大使。世界情勢が激動する中で国力差が開く日中関係をどう舵取りするのでしょうか。中国が最も恐れる男が日中関係のリアリズムを語ります。

東洋経済education×ICT