「赤字国は怠け者で黒字国は勤勉」という大誤解 自由貿易体制の堅持には為替調整が必要だ

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船橋:われわれは貿易黒字はよいことで貿易赤字は悪いことだと考えがちです。黒字国の国民はよく働き、赤字国は怠けていると考えます。とくに日本やドイツではその傾向が強い。

船橋洋一(ふなばし よういち)/1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など(撮影:今井康一)

ただ、国際秩序の観点から見ると、いいも悪いもありません。赤字国の抱える問題を解決する方策を共に考えなければ、持続可能な秩序を築くことはできません。国際政治ではそのコンセンサスをつくるのも地政学的な取引にならざるをえない。今の米中関係を考えると、なかなか難しい。

クー:そのとおりです。赤字国は怠け者で黒字国は勤勉だというのは、われわれ東アジアにいる者はみんなそう思っています。アメリカ人は遊んでばかりいるから生産より消費が多く、生産品が少ない。黒字国はそれを埋め合わせているのだという議論です。30年前の日本も、今の中国もその議論を使って、貿易の不均衡の理由を説明しています。

けれど、経済学的に見ると、それでは説明できないことが起きています。

「赤字国怠け者論」が正しいとすれば、アメリカでは、とくに製造業において、生産稼働率は最高水準に達し、これ以上作ることはできず、大儲けしているという現象が起こっているはずです。大儲けしているから遊んでいられるわけです。しかし、現実は逆です。アメリカの工場は次々に閉鎖に追い込まれ、何百万人もの失業者が生まれました。

貿易収支を均衡に近づけるためには

クー:貿易の不均衡の理由を説明できるのは為替です。1970年代までは、貿易黒字国の通貨は高くなり、赤字国の通貨は価値を下げていました。それで貿易の均衡は保たれていました。1973年の変動相場制移行後、固定相場では360円だったドルは、1978年には180円を割っています。

ところが、金融と資本の自由化が始まった1980年頃から様相が変わります。資本の自由化により、日本のお金がアメリカに流れていってしまったため、1ドル280円まで戻っています。そこで台頭したアメリカ国内の保護主義を抑えるために、プラザ合意に向かうわけですが、資本の自由化がなにをもたらすか、当時は、アメリカの人もほとんど考えていなかったんです。

資本の自由化の目的は、世界のお金を日本に向かわせ、結果、円高に誘導することでしたが、起こったことは逆でした。問題の捉え方が不十分だったのです。

だから、貿易収支を均衡に近づけるためには、黒字国の通貨が強くなるような為替調整が必要で、これを自由に放置することはできないというのが、私の「アジアのプラザ合意」論(自由貿易体制を堅持するには、中国、日本、韓国、台湾の通貨が対ドルで20%高くなるよう、アジア主導で協調し為替調整すべきと主張)の基本的な発想です。

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