「赤字国は怠け者で黒字国は勤勉」という大誤解 自由貿易体制の堅持には為替調整が必要だ

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クー:だから、集団指導体制の中で決定しなきゃならないけれど、日本から出てきたアイデアに乗るのは難しいと。そういう話で終わってしまいました。

けれど、10年前より事態は深刻です。とくに、昨今のアメリカの動きを見ていると、われわれが自由貿易について学んできたこと、その教科書的な理解に問題があるのだと痛感しています。

船橋:どういうことか、教えてください。

リチャード・クー/1954年、神戸市生まれ。1976年カリフォルニア大学バークレー校卒業。ピアノ・メーカーに勤務した後、ジョンズ・ホプキンス大学大学院で経済学を専攻し、FRBのドクター・フェローを経て、博士課程修了。1981年、アメリカの中央銀行であるニューヨーク連邦準備銀行に入行。国際調査部、外国局などでエコノミストとして活躍し、1984年、野村総合研究所に入社。現在、同研究所未来創発センター主席研究員。2019年4月に『「追われる国」の経済学 ポストグローバリズムの処方箋』(東洋経済新報社)を上梓(撮影:尾形文繁)

クー:私たちは、例えば大学では、自由貿易はよいことだと学びました。自由貿易は国内に勝者と敗者を生むけれど、勝者が得るものは敗者が失うものよりもはるかに大きいから、トータルでは必ずプラスになる。だから、国内で適切な所得再分配ができるならば自由貿易は最高なのだと習いました。けれど、実はそれには「貿易が均衡していれば」という大前提があります。が、それは誰も教えてくれませんでした。

貿易が均衡か黒字ならば、自由貿易はその国にとっていいことだという結論は正しいのですが、赤字が続くと、国内の敗者が失うものが勝者の得るものより大きくなり、さらに、敗者が増えていきます。アメリカの貿易収支が最後に均衡していたのは、40年も前の1980年のことで、その後はずっと赤字です。その間に敗者が増え続け、2016年にトランプ大統領を生む原動力になったと言えます。

世の中をそのように理解すれば、貿易の不均衡は一過性の問題ではありませんから、トランプのように恣意的に関税を操作し、自由貿易に挑戦する政治家は今後も現れてくるはずです。そうなると、世界経済の安定は保てません。

ですから、この間の貿易不均衡で大きな利益を得てきた東アジアの国々、つまり、われわれが何か手を打たなければなりません。具体的には、プラザ合意のように、各国が協調しドル安を誘導する為替調整をすれば切り抜けられる――。論文は、そのような主旨です。

赤字国怠け者論は誤謬

船橋:一過性ではないというのは重要な指摘だと思います。これは構造的な問題ですね。中国の中にも為替調整をやらざるをえないという意見があることはあります。ですが、国際秩序をサステイナブルに維持するために、誰がリーダーシップを担うのかという問題が、他方にあります。赤字国のアメリカがそれをずっと担っているということでは続かなくなる。

クー:そういうことです。

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