成婚退会をしてすぐに彼の家の鍵をもらい、「これからは自由に出入りして」と言われた。ある週末、彼が休日出勤している間に家に行き、部屋を少し片付けることにした。
まずは自分が主に使うこととなる、キッチンから片付けていこうと思った。
「キッチンの棚を開けて、びっくりしました。食器なんてほとんどないのに、棚の中は買いだめした洗剤、サランラップ、ティッシュでパンパンでした。そのほかにも顆粒のスポーツ飲料、カップ麺、1杯ずつドリップできるコーヒーなどがいっぱいありました。ペットボトルが入った段ボールも6箱くらい積み上がっていました」
これは消費して片付けていくしかないと思い、洗濯機の置いてあるバスルームに行ってみた。するとそこの棚にも、お風呂の浴槽洗剤、洗濯洗剤、柔軟剤、消臭剤、洗濯ネット、トイレットペーパーなどが、パンパンに詰まっていた。
その日、会社から帰って来た彼に言った。
「どうしてこんなに物を買いだめしているの? 昌吉さんは一人暮らしだし、こんなにストックしても使いきれないでしょう?」
すると彼が言った。
「ドラッグストアの前を通って安売りしているときに、買っておくんだよ。いつかは必ず使う物だし、備えあれば憂いなしだから」
買いだめして物をあふれさせていることに、何の疑問も持っていないようだった。そこで、真奈美が言った。
「でも、これからは1人じゃなくて2人の暮らしになるんだよ。棚という棚にあんなに物が入っていたら、私の荷物を入れるスペースがない。私が引っ越してくるまでに少し整理してほしいなあ。今度2人で、部屋を片付けようよ」
“思い出”という名の“ゴミ”に囲まれた生活
次の休みの日、真奈美は家の片付けを一緒にすることを提案した。買いだめされた洗剤などは捨てるわけにはいかないが、いらない物、使っていない物は処分したほうがいい。
そのときの様子を、真奈美は私にこう語った。
「3LDKの家なのですが、6畳の1部屋は物置になっていて、荷物でパンパンでした。薄汚れたサッカーボール、ガットが緩んだテニスラケット、傷だらけのスキー板もありました。『これ使うの?』と聞いたら、『使わないけど、高校や大学時代の思い出だからね』と平然とした顔で言うんですよ。当時着ていたと思われる流行遅れのセーターやジーンズやチノパンなんかも、全部捨てずに取ってありました」
さらに驚いたのは、ビニール袋の中から、黄ばんで字が見えなくなったレシート、ロープウェイなどの乗り物の半券、映画チケットの半券、旅行先でもらったと思われるパンフレットなどが出てきたことだ。
「私が捨てようとしたら、『あ~、捨てないで! 思い出の品だから』と。私には、ただのゴミにしか見えないものでも、彼には宝物なんです」
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