さらにその日、夕食を食べに近所の定食屋に2人で出かけた。帰り道にドラッグストアの前を通ると、店頭にサランラップが特売しており、“お1人様2点限り”とポップに書かれていた。
「そしたら彼が、『あ、ちょっと待って』て、立ち止まって、私に2本サランラップを渡して、自分も2本持ち、『ハイ、これ買ってね』と、300円を渡してきたんです」
キッチンにはまだ未使用のサランラップが10本以上ストックされているのに!
「『なんで買うの? 家にたくさんあるじゃない?』と言ったら、『こんなに安く売ることは、めったにないから。安いときに買っておいたほうが得でしょう? 1人2本だから、真奈ちゃんも買って』と悪びれずに言うんです」
“またストックが増えるのか”と思いながらも、ここでケンカするのも大人気ないと思い、その日はサランラップを2本、真奈美も買った。
実家でも同じ光景が繰り広げられていた
母にこのことを相談すると、母は言った。
「安いときに物を買いだめするのは、決して悪いことではないんじゃない? ギャンブルやよその女性にお金をつぎ込む男性も世の中にはいるんだから、それに比べたらよっぽどいいわよ。だいたい理想に100%かなう男性なんて、世の中にはいないわよ」
言われてみれば、確かにそのとおりかもしれない。昌吉がストックするのは何百円の日用品で、高価なブランド品に散財している訳ではない。年収も人並み以上にあるので金払いもよく、食事をしたときに真奈美にお金を払わせたこともなかった。また、すぐにキレたり暴言を吐いたりするタイプでもなく、穏やかでやさしい性格だった。
気になるのは、物を買い込むことと片付けられないところだけ。結婚してからは、その部分を自分が担い、日用品のストック管理や部屋の掃除をすればいい。
真奈美は、そのまま結婚話を進めていった。
そして、あるとき、昌吉の実家に結婚のあいさつに行った。そのとき驚いたのが、実家も物であふれ返っていたことだ。
「お義母さんが手料理でもてなしてくださったので、食べ終えた食器をキッチンに運んだんです。そうしたらキッチンの床に、ペットボトルのお茶の段ボール箱が積み上げられ、床には何十本もの食器用中性洗剤や料理用オイルが並べられていました。キッチンペーパーやティッシュの箱も大量に積まれていました」
昌吉のストック癖は、母親譲りなのだと感じた瞬間だった。
そして、「お義母さん、ずいぶんと買いだめしていらっしゃるんですね」と言うと、義母は昌吉とまったく同じことを言った。
「安いときに買ってくの。いつかは使うものだし、備えあれば憂いなしでしょう?」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら