日本人が「国境なき医師団」で実は重宝される訳 作家のいとうせいこう氏に聞く

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──現在日本人登録者数は300人。多くはないですね。

日本にはまだ、国際協力の実務経験をキャリアとして捉える風潮がない。看護師さんもお医者さんも帰国すると新米からのやり直し。困難な地域で腕を磨いてきた彼らをちゃんと評価する体制になってないんです。欧州では彼らはリスペクトされてる。テロが起きれば、いちばん頼りになる存在でもあるし。日本人スタッフと飲んだりすると「正直そこはつらいんですよね」って。それでまた1人、優秀な人材が流出していく。

日本人がいると場がギスギスしなくなる

──実はMSFに日本人ならではのニーズがあるそうな。

みんな口をそろえて言うのは、日本人はチーム内の調整役としてうまく機能できるということ。どこへ行っても誰に聞いても、日本人がいると場がギスギスしなくなると。民族や言語の壁で言い争いが始まったとき「まあまあ」となだめたり、両方の肩を持とうとするのが日本人の習性らしい。

いとうせいこう 1961年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、1984年講談社入社。『ホットドッグ・プレス』編集などを経て1986年退社。活字・映像・音楽などマルチに活動。『ボタニカル・ライフ』『想像ラジオ』『ノーライフキング』ほか著書多数。肩書の「作家」は、ものを作る人の意味。(撮影:今井康一)

本当は若者も定年後の人も、自分が持つ電気系統や配管の技術とか、きれいな水をつくる技術とか、安く資材調達する交渉力とかをもっともっと生かしてほしい。おじさんたちの死んだ目を見ると、すごく残念なんですよね。

──読んでいて印象的だったのはMSFの活動の幅広さでした。駆けつけて応急処置して「ハイ、次の人」じゃなく、心のケアにも手を尽くす。コレラに罹患(りかん)した妊婦が退院する際には、先回りして家を消毒しておく、とかも。

緊急事態発生から現地入りまで48時間が目安。通関手続きを済ませた物資を世界5カ所に備蓄しています。そして初動のニーズを満たしたら撤退する。そのために周辺の病院の能力をつぶさに調べ、後を任せられるようにする。まさに“風のように飛んできて、風のように去る”なんですね。

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